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ラグビー日本代表は進化しているか 強豪に連敗も欧州遠征で見えた“2023年への光”

新たな戦力が期待を裏切らないパフォーマンス発揮

 ゲーム以外での課題は、総括会見で藤井ディレクターが指摘している。

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「最初に(現地に)いったときにボールもないようなグラウンドに連れていかれた。もちろんオールブラックスだったら絶対使わないような練習場だった。協会の仕事になるかも知れないが、そういう意味ではまだまだ世界と渡り合えるところまでいけてないなと実感した」

 これは特にアウエーでの問題だが、遠征時における事前の練習場、生活環境、試合会場などの下見や情報収集は、強豪国なら当たり前の準備だ。だが、日本代表の場合は、スタッフもチーム強化のための人材が大半で、遠征地の視察などにかける人も時間も予算も十分ではないのが実情なのだ。人件費等も含めて、今後の検討材料になるのは間違いないだろう。W杯では一定の環境は確保できるにしても、もし2年後に本気でベスト4に食い込もうとするなら、このようなゲーム外の環境整備も重要な課題になるはずだ。

 今遠征では情報戦の問題も浮上している。再び藤井ディレクターのコメントだ。

「(ライオンズ戦が行われた)スコットランドは(同代表が19年W杯で)負けているということもあるのだろうが、サインプレーがほとんどバレていた。気をつけてやっていたが、完全に丸裸にされていた。意表を突くプレーを作っていかないと、ああいう相手には勝てないので、今後どうやっていくかは、今からの課題だと思う」

 このような環境や情報漏洩の問題は、ポジティブに見れば、対戦国が本気で日本を警戒する時代が訪れたことを示している。相手が実力互角だったり、強豪であれば、ホスト協会が意図的に悪い環境をあてがうことで揺さぶりをかけてくるのは、伝統的にラグビーで行われてきたことだ。冒頭にも書いたように、日本代表が「お客さん」ではなく本当の敵になったことの証明でもある。

 その一方で、他国以上に緻密なサインプレーや戦術を組み上げる日本代表にとっては、情報の流出は勝敗に直結する深刻な問題であるのも明らかだ。このような環境・情報問題は、すでにスコットランドとの対戦が決まり、アイルランドとの再戦の情報も浮上する今秋の遠征から、場合によってはコーチングスタッフも同行するような事前視察なども検討する必要があるだろう。

 最後に、2年後へ向けた選手層の問題について触れておきたい。これまでも2023年W杯で前回のベスト8以上の成績を残すためには、選手層の厚みが大きな課題だと指摘してきたが、今回の遠征を通じても、このエリアで収穫も、そして課題も見えてきた。

 プラス材料は、新たな戦力が期待を裏切らないパフォーマンスを見せたことだ。特筆するべきは、SH齋藤と、WTBで起用されたフィフィタの2選手だろう。

 齋藤に関しては、すでに書いたように日本代表の速いテンポのアタックに必要な集散のスピード、ボール捌きのスキルを、ライオンズ、アイルランドという強豪相手にも見せていた。本人は初先発となったアイルランド戦後に「自分のダイレクトタッチで流れを持っていかれた。テストマッチでは、ワンプレーで流れが変わることを痛感した。このような強度で2試合を戦えたことはとても貴重な経験であり、次につなげたいと思う」と厳しい自己採点をしていたが、ラックで重圧を受けながらでも、ボールを動かすことができたのは齋藤個人にとってもチームにとっても大きな収穫だろう。同時に、チームの攻撃を加速させるために、ほぼミスなしで相手の胸元、やや前方にパスを投げ込むコントロールの高さも目を見張るものがあった。

 フィフィタに関しては、遠征2試合とも先発メンバーの座を確保してフル出場を果たしている。医学部進学のために現役を引退した福岡堅樹の後釜争いで注目されていたが、福岡のスピードとは異なる力強さでインパクトを残した。

 すでに触れたアイルランド戦でのトライアシストの好走やトライが光るが、選手スタッツでも、ボールを持ってのアタック走行距離、ボールキャリー回数、防御突破など攻撃項目の大半で両チームトップの数値を叩き出している。

 検討材料があるのは、これから代表に入ってくるべき人材の強化育成だ。藤井ディレクターは会見で指摘している。

「代表スコッドから外れた選手が(代表の)次のレベルでやるチームがない。例えばジュニアジャパンだったり、ニュージーランドのマオリオールブラックスのようなチームがないので、それをどう作るかを今回の遠征中にも話し合った。ちょっといいなと思う選手に国際レベルの試合を経験させたいが、サンウルブズがなくなってしまったので、どのように若い選手に経験をさせていくかに頭を悩ませている」

 これはW杯日本大会直後から重要な課題と指摘してきたが、同ディレクターの話からは、いまだに新たなプランには着手できていないことがわかる。コロナ禍の影響で思うようなチーム内、対外活動ができないことが深刻な痛手になっているが、2年後、さらに次々回W杯へ向けては、すぐにでも着手するべき課題でもある。

 今回の対戦国や、これから試合を組む国の協会、そしてスーパーラグビーやフランスリーグ参画チームなどとも接触して、ティア1クラスの国の若手チームと安定的に実戦が組める環境整備が必要だろう。そのためには、代表チームだけではなく協会によるコミュニケーション、交渉も重要になるはずだ。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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