当たり前を壊してきた31歳寺田明日香 東京五輪を狙いながら次世代育成に懸けた理由
社会にメッセージを発信する信念「私は私であるということだけ」
こうした多様性を感じる意味で、目の前に迫ってきた東京オリンピック・パラリンピックは大きな価値を持つことになるだろう。
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今、開催を巡って世論は揺れる。果たして、東京五輪は何のために開催されるべきなのか。出場を目指してきた選手として、一人のスポーツ選手として思う意義とは――。寺田は「今はやっぱり歓迎されていない雰囲気はすごく感じています」とした上で言う。
「誰も想像していなかったコロナ禍から、いろんな人たちが少しでも良くしようと考えた結果、リモートワークの環境整備とか、陸上の競技会も感染対策の方法や検査とか、知恵が出てきた。もちろん、社会的には医療関係や飲食店のように苦しい思いをされた方々もいらっしゃるのですが、悪くなった部分もあれば、良くなった部分もあると思っています」
もちろん、社会的に苦しい立場の心情は理解している。同時に、逆境に光を見出し、顔を上げるのはアスリートの一つの特性でもある。
「やっぱり、人間は悪い部分に目が行ってしまうから、良い部分を忘れがち。でも、便利になった部分はやっぱりあって、会社に行かなくても仕事はできると気づいたし、選手も過剰な練習をしなくても結果は出るんだ、それならもっと自分の身体と対話しながら休んだ方が良いかもと気づいた。そういう前向きな方向に、オリンピックを通じて目を向けられればいいのかなと」
批判も恐れることなく、想いを発信している寺田。なぜ、その信念を貫けるのか。アスリートとして心にあるのは「私は私であるということだけ」という。だから、行動の軸が他者の評価に依存することがない。
「寺田明日香が嫌いなら、それでいい。あまり作った私でいたくない。もし私にダメなことがあれば指摘してくれるチームがいる。今後についても、例えば、まだ社会に認められていないママが競技をする難しさを問題提起していく。それが後輩選手のためになり、女性が社会で働く環境を考えることに繋がっていけば。その中で、ありのままの私を認めてくれる人がいて、好きになってくれる方がいらっしゃればうれしいなと思います」
嫌われることを恐れない。だから、いくつもの当たり前を壊してきた。寺田明日香という名の個性を光らせながら、東京の舞台も駆け抜ける。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)