「負の遺産」から「地域のハブ」に ベンチャー企業が提案する新スタジアム活用法
高額スタジアム建設に民間企業は参入せず…河辺さんの熱意が生んだ「日本最安プラン」
例えば、サッカーチームが拠点を置くスタジアムであれば、実際に試合が行われるのは最大年間30試合ほど。つまり、年間300日以上も稼働しない日がある。となれば、いつまで経っても建設費と維持費が回収されない赤字続きの施設となってしまう。そこでスタンダードスタジアムが提案するのが、地域社会が持つ課題解決の場としての利用だ。
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解決されるべき課題は、その地域によって異なる。高齢化が進む地域であればスタジアムに高齢者用デイケアを併設したり、共働き夫婦の多い地域であれば学童保育を併設したり。スポーツに直接興味関心のない地域住民も日常的に利用できる場となれば、スタジアムは存在意義を増す。
では、なぜ現在あるスタジアムは有効活用されず、稼働日数が少ないものが多いのだろうか。河辺さんは「国や地方公共団体など公共の持ち物であることが一因にあると思います」と話す。
「日本にあるスタジアムの9割以上は公共施設だと思います。その理由は、スタジアム建設費が高額で回収不能だということ。だから、民間企業は手を出しません。民間が参入してスタジアム経営の新しいアイディアを出し合い、健全な競争が生まれれば、スタジアムは負の遺産から変われるはず。だったら、建設費が安くなれば回収できる可能性が高まったり、実際に回収できる事例が生まれるかもしれない。その最初の事例を作ることも、私たちのミッションだと考えています」
河辺さんは町田市議として活動する間に、現在J2に所属するFC町田ゼルビアの本拠地・町田GIONスタジアム改修を巡る議論を経験した。関東サッカーリーグからJFL、J2へと昇格するのに合わせ、Jリーグが定めるスタジアム基準を満たす必要性が発生。2009年から現在まで、J1クラブの基準をクリアするよう約100億円の公的資金が投資された。改修予算案を巡り、議会は紛糾。異議を唱える議員=サッカーチームの敵と見なされるなど、図らずも地域に不協和音が生まれてしまった。
そもそも建設費が安ければ、こんな議論にはならなかったのでは……。そう考えた河辺さんは、通常100億円を超えるという新スタジアム建設をどこまで安くできるのか、建築業界を訪ね歩いた。その思いに賛同してくれたのが、建築家の坂茂(ばん・しげる)さんだ。
坂さんが提案したのは、2019年ラグビーW杯のカテゴリーC(収容人数1万5000人以上)規模に相当するスタジアムで建設費は約34億円(2017年当時)。「間違いなく、日本で一番安いスタジアムプランですよね」と河辺さんは続ける。
「5億円で建てたスタジアムと、500億円で建てたスタジアムがあって、仮にまったく同じ試合が両方で行われた場合、前者は後者に比べて観客が味わう面白さが1/100に減るかと言ったら、そんなことはない。だったら、必要最小限の機能を持つ安価なスタジアムがあってもいい。そういう選択肢があれば、民間企業も参入しやすくなるでしょう」