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最後のトップリーグ、4強を徹底分析 パナソニック、サントリーで順当か、それとも…

サントリーの選手たち【写真:石渡史暁】
サントリーの選手たち【写真:石渡史暁】

サントリーvsクボタはスピードとパワーの凌ぎ合い

 日曜日の準決勝第2戦は、リーグ唯一の全勝チームであるサントリーと準々決勝で神戸製鋼を倒して勢いづくクボタの再戦。6週間前に行われたレッドカンファレンスでの直接対戦では、同点で迎えた残り2分で、ニュージーランド代表SOボーデン・バレットの個人技でトライ、ゴールを決められクボタが涙をのんだ。

 このカードは、リコーに新型コロナ陽性者が出たため準々決勝を不戦勝となったサントリーと、神戸との激闘での疲労と、準々決勝で受けた退場の追加処分でSOバーナード・フォーリーを欠くことになるクボタとの戦いだが、それ以上に対照的なチームカラーの激突が注目ポイントだ。ボールを大きく動かし、スピードでトライを狙うサントリーに対して、クボタは大型FWを相手防御に当てて前進を図るスタイル。横と縦、スピードとパワーの凌ぎ合いが期待される。

 ここまでの成績、直接対戦を見ればサントリー優位と考えられるが、クボタも試合を重ねながら進化を続けている。スタッツを見る場合、サントリーが中止になったリコー戦の1試合ぶん少ないことを念頭に置いて比較する必要があるが、トライ数、総得点など攻撃面の数値で全勝チームが上回っている。データ上はサントリー優位と考えていいが、このカードについては、数値に表れない領域も含めて考えていきたい。

 極力シンプルにこの対戦を考えれば、先にも触れた通りスピードとパワーの戦いになる。具体的には、サントリーのハイテンポな攻撃を、クボタがどこまで寸断、スローダウンできるかが焦点になるだろう。パナソニックートヨタ同様に、ブレークダウンでの攻防は1つのキーポイントだ。神戸製鋼戦でも相手にフィジカルバトルで重圧をかけ続けたルアン・ボタ、デーヴィッド・ブルブリングの大型LOコンビらクボタFWが注目されるが、真っ向勝負してきた神戸製鋼とは異なるキャラクターを持つのがサントリーだ。

 今季のサントリーの戦いぶりを見て、他のチーム以上に完成度を感じるのは「準備と予期」だ。サントリーの選手の動き、プレーから読み取れるのは、1つのプレーだけではなく、その前のプレー、次のプレーを頭に入れながら選手が動いていることだ。

 準々決勝が不戦勝となったため、NECと対戦したプレーオフ2回戦に立ち戻ろう。前半38分のPR森川由起乙のトライまでの一連のプレーが、この「準備と予期」を見事に表現している。

 起点は自陣10mライン内のHO中村駿太の鮮やかなジャッカル。このプレーで相手の反則を奪うと、SH流大が迷わず速攻を仕掛ける。NECは反則の笛ではなく、一拍後の流の速攻を見て動き始めているのに対して、サントリーはすでにアタックラインを形成して走り出している。そして左オープンから防御のギャップを突いて裏に出たバレットをFL飯野晃司が追走して、オフロードパスを受けながら前に出てラックを形成。テンポを緩めることなく流が右オープンにパスを送ると、ライン参加した中村からのリターンパスに森川が駆け込み30m近くを走り切っている。

 このトライまでの一連のプレーでは、速攻を仕掛けたときに自分たちがどう動くかを頭にインプットされた選手たちが、判断とアクションの早さで相手よりも優位な態勢を作り出している。突発的なNECの反則が起点だが、そのような状況で選手個々がどのように判断して、どのようなプレーを選択するかは、しっかりと準備されてきたものだ。

 そして、トライを決めた森川の動きからは「予期」が読み取れる。帝京大時代から走力の評価が高い森川だが、ボールを追いながら、中村がわずかなパスの乱れで体を内側に向けて捕球している姿をしっかりと把握して、中村の内側に走り込んでボールを受けるランコースを選んでいる、刻々と変わる状況を見ながらの判断だ。中村―森川という、セットプレーやコンタクトプレーが“本職”のフロントローでも、このような判断と質が高いプレーが出来るのが、いまのサントリーの強さだ。

 もちろん、どの上位チームのトッププレーヤーでも、このような「予期」をしっかり持ってプレーしているが、他のどのチームよりもグラウンドに立つ15人が“同じ絵”を見ているのがサントリーだ。自分たちの生命線でもある攻撃の流れ、テンポを落とさずにプレーを継続するために準備を積み上げ、仲間の動きを予期する判断力を磨き込んでいる。このようなサントリーの身体と頭脳を生かしたアタックを、どこまでクボタが封じ込めるのかを想像するとキックオフが待ち遠しい。

 4チームのデータやここまでの戦いぶりから判断すれば、決勝戦に最も近いのはサントリー、パナソニックのカンファレンス1位チームになるだろう。もちろん、ここまでに挙げてきた強みを、トヨタ、クボタが見せてくれれば、ファイナリストの顔ぶれを変えることも十分にあり得る。しかし、リーグ最高のアタッキングチームであるサントリーと、鉄壁の防御が武器のパナソニックという対照的なキャラクターの激突は、TL18シーズンの総括にふさわしいクライマックスになる。

 このカードが実現すれば、サントリーが磨き込んできた“準備と予期“と、パナソニックのブレークダウンへの仕掛け、そして次の防御に厚みを持たせるために密集戦を見切る判断力の勝負になる。ラグビーならではの激しいコンタクト戦と同時に、巧妙な頭脳戦を楽しめる最終章を楽しみたい。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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