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「頭を使え、死ね」 元陸上選手が闘った「アスリートとSNSの誹謗中傷」問題の現実

「気にしない」は難しい現実、競技で培った心の強さとは「全然違う」

――届いたメッセージを見ると生々しく、とても恐ろしいですが、自分では誹謗中傷を受けるきっかけに心当たりはなかったんですか?

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「まったくないです。ある日、突然始まって、それがちょっとずつ増えて行った感じです」

――SNSの誹謗中傷に耐え兼ね、自殺につながる例もあります。その際に「そんなもの相手にしなければいいのに」「名前も顔も出さない人の意見は無視しろ」という声が上がります。しかし、当事者としては難しいですよね。

「もちろん、他人から見れば『気にしなければいいのに……』と思いますが、それは無理な人にとっては無理だと思うんです。心の強さの問題もありますし、そういう人は心の処理が追い付かなくなってしまいます。僕もそこは結構しんどかったです。『ああ、そう思われているのかな』と心のどこかで思ってしまうので。でも、あまり参考にならないかもしれないですが、僕自身はつらいこと、苦しいことがあっても、すぐ忘れてしまうタイプなんです。寝て起きたらリセットされてしまっています。

 以前、この連載で引退後に月収15万円で働かされ、体も心も壊れた時がありましたが、それはどれだけ忘れてもまた同じことが来ることがしんどかったのですが、今は楽しいし、夢中になれることが毎日あるので、つらいことがあっても切り替えられます。僕が誹謗中傷を受けるようになったのはそういう生活を抜け出し、スプリントコーチ業を始めた後からでした。ダイレクトにアンチの声を食らう経験をしたので、今はなんとも思いません。僕みたいになんとも思わないような脳みそだったらいいのですが、それは人それぞれなので」

――秋本さんは「心の強さの問題」と言いましたが、アスリートは競技で苦しく、つらい経験をしながら困難を乗り越え、体も強い。一般人より、ずっと心が強いイメージを持ちがちですが、それは競技における「心の強さ」の質とは全く違うものでしょうか?

「全然違うと思います。自分のプレーに対して言われることは、自分が一番分かっていることでもあるので良いんです。でも、容姿とか、どうにもできないことは違う批判で、人格否定です。特に僕は『批判』と『批難』の差をちゃんと理解し、受け止めた方が良いと思っています。例えば、僕が陸上選手でレース後半に『勝てない』と思ってラストを緩めたとします。それを『あれはない。応援してくれる人に失礼』と言われたら、それは批判です。大切なことは改善点があるかどうかです。

 そこで諦めずに走って負けたら、また応援しようという気持ちになる人はなってくれます。一方で『お前、足遅いんだから陸上辞めろよ』と単にやじるだけなら、それは批難です。改善点を述べているわけではないので。野球、サッカーはより分かりやすいと思います。『なぜ、あそこで追わなかったのか』『そうしたら、何か起きたかもしれないだろ』と言うなら、改善点が出ている。だから、批判。『あれに追いつかなかったらサッカー選手として終わっている』と言うなら、批難です」

――誰がどんな文脈でぶつけている言葉なのかをしっかりと見極めることが大事ということですね。

「選手それぞれ、思い当たる節を突かれるのは痛いのは痛いです。でも、そういう人をどれだけ持っているかも大切です。ただ、信頼している監督、コーチに言われるのと、名前も顔も分からないネットの人間に言われるのは突き刺さるレベルが全然違います。その分け方をちゃんとできているかどうかが大事だと思います。僕もツイートをすると、マウントを取ってくる人がいます。意見を述べるのは構わないのですが、自分の価値観を押し付けるマウントの取り方は無意味です。なので、そういう人に関しては一切リアクションしないということは決めて徹底しています」

――マウントを取りたい人はスポーツとファンという構図に限らず、私たちの日常生活でも珍しいことではありません。

「その通りで、周りの声を受け流すことが難しい人というのは、それも全部受け入れてしまうんでしょうね。『お前ブスのくせに』とか競技と全く関係ないようなコメントが女子選手に投げかけられているのを見ることもありますが、『私って可愛くないのかな』とどこかで真に受けてしまう。でも、それはただの批難なので。全員が全員に好かれるということは100%あり得ない。そこを理解して割り切って乗り越えないとキツイと思います」

――例えば、東京五輪を目指しているようなトップアスリートは数万から数十万のフォロワーを抱えている人も珍しくなく、彼らは決してそうした声を表にすることはありませんが、裏では心無い声がぶつけられていることは想像できます。

「だからこそ、さっきの話に戻りますが、『批判』か『批難』かをよく見極めてほしいです。まず、批難はどうでもいい。『私のこと好きなんだな』くらいに思ってほしいです。でも、本当にこれ以上は頑張れないくらい、もがきまくっても結果が出なかったとして、言う人は言います。『もっと土台を作った方がいい』とか『もっと技術改善した方がいい』とか。それはその人の想いでもあります。心配している、気にしている、興味あるということ。それは頭の片隅に置くくらいでいいので、すべてを真に受けないでほしい。個人的にそう思えたきっかけがあります」

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