「好きと思えるうちは辞めないで」 中野友加里が考える「女子選手の競技寿命」問題
競技寿命が課題の女子選手、日本の後輩たちへ「好きと思えるうちは辞めないで」
――中野さんは大学院修了の24歳まで現役を続けました。しかし、フィギュアスケートは今、トップ層が低年齢化し、それに伴うように早い年齢で競技を離れるケースが目立ち、選手寿命の問題について見つめ直す時が来ているように思います。
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「海外勢、一つの国を挙げれば、ロシアは体型変化に苦しむ選手が多く、早くに引退してしまう現状があります。その中で日本はわりと長く続けているスケーターが多い国です。女子なら今年22歳になった宮原知子選手も体力が落ちている印象はありませんし、何より一番の良いお手本になっているのが羽生結弦選手。今年で26歳になりますが、昔は競技を続けるのが難しいと言われていた年齢。でも、今はそれが当たり前になりつつあります。
どうしてもスポーツは若い選手に注目が集まりやすく、フィギュアスケートも若い選手が結果を残しているがゆえにベテランの選手がトップにいないと思われがちですが、決してそうではありません。そういう世代がルール上、評価されにくいのは少し残念ですが、これからも息の長い選手は出てくると思いますし、私自身はとても期待しています。ルール上の問題も一つあるので、年齢制限など、この先、ルールが変わっていく可能性もあると思います」
――中野さんが心と体が一致していたと思うのは何歳の時だったのでしょうか。
「私自身は20歳です。体重コントロールができて、試合で結果を残すこともできた。一番良い時期でした。一般的には20歳を超え、22、23歳くらいから体力の落ち始めを感じます。私も『20歳を超えたら、今と同じような練習ができなくなるから、怪我だけは注意して』とよく言われていました。ただ、才能が早く開花すると、早く衰えると言われますが、浅田真央選手のように10代前半から長くトップを走り続けた選手もいます」
――体力の充実している10代の選手が難易度の高いジャンプを跳ぶことも競技の面白さですが、表現力を身につけた20歳前後の選手が芸術性を表現することもフィギュアスケートのも魅力だと思います。
「今は4回転を跳べないと勝てない時代になり、逆に言えば、表現力などスケートの奥深さが追いついていなくても4回転を跳べば勝てるルールになっています。もし、ルールが変わって4回転の本数や出場年齢が制限されたら、ベテランの選手がもっとトップに行く可能性もありますし、4回転がなくても勝てる選手が出てくるかもしれません。女子選手は20歳を超えてからスケートの味や深み、ベテランならではの色気も出てくると思います。表現面に加え、技術と両方が合わさった演技でもって、上位に行く選手が出てきてくれたら。それが一番のフィギュアスケートの魅力にあると思います」
――フィギュアスケートの人気は高まり、五輪を目指すトップ選手に限らず、競技人口は増えています。その中で、それぞれのカテゴリーで悩みを抱えながら競技に励んでいる10代の選手もいると思います。彼女たちに対してかける言葉があるとすれば、どんなことでしょうか?
「一つのタイミングになるのは学校。今、自分が通う高校・大学・短大・大学院、それぞれありますが、その卒業、修了までは続けた方が『スケートをやり切った』『スケートと歩んだ人生』と言えるのではないかと思います。一つのことを継続し、区切りまでやったことが人生にとって大切かなと。もし、技術が後退したり、大会で結果が出なかったりしてもフィギュアスケートを楽しんでほしい。もちろん、苦しくなったら離れてもいいですが、フィギュアスケートを最後まで自分がやり切ったと思える境地まで続けてほしいです。フィギュアスケートが楽しい、好きと思っているうちは辞めないでほしいと、私は言いたいです」
■中野友加里
1985年生まれ。愛知県出身。3歳からスケートを始める。ジュニア時代から活躍し、シニア転向後は06年四大陸選手権2位、07年冬季アジア大会優勝、08年世界選手権4位など国際大会で結果を残した。全日本選手権は3度の表彰台を経験。10年に引退後、フジテレビに入社。スポーツ番組のディレクターとして数々の競技を取材し、19年3月に退社。現在は解説者を務めるほか、審判員としても活動。15年に結婚し、2児の母。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)