バイエルンかPSGか 川口能活が「GK目線」で読むCL決勝「リコの出来が鍵握っている」
「僕が注目しているのはディ・マリア」、その理由とは?
圧倒的ポゼッション能力を誇るあのバルセロナをいとも簡単に呑み込み、準決勝でリヨンをあっさり退けたバイエルンの前線からのプレスはどんな点が優れているのか。シンプルさを追求した先にある本当の強さを解説するのに、難しい言葉は必要なかった。
「前線にいるレヴァンドフスキ、ミュラー、ペリシッチ、そしてニャブリは守備意識がとても高い。前線からのチェイシングを怠らず、さらにプレスバックも積極的に行います。あれだけ前線の選手がハードワークしてくれたら、後ろの選手もそれに応えざるをえません。戦術的にもメンタル的にもスイッチが入りますし、それを大会方式が変わってタイトな日程の中でも常に続けているのは本当にすごいことです。バイエルンは決勝戦でも高い位置からプレスをかけるでしょうし、それを90分間継続するはずです。それができる彼らは本当に強い。まさしくスーパー・バイエルンです」
強いバイエルンに対し、序盤を無失点でしのぐことでPSGにもチャンスが生まれる。試合を決める存在をクローズアップした時に、バイエルンの面々にまったくひけを取らない“個”がPSGの前線にいる。
「ネイマールとムバッペは個の力で局面を打開できる特別な選手です。彼らはトップスピードの中で高いテクニックを発揮できるので、バイエルンがスペースを与えてしまうと厄介な存在です。
そして僕が注目しているのはディ・マリアです。ネイマールとムバッペが自由に想像力を発揮できるのは、一歩引いたところからサポートするディ・マリアの存在が大きい。それにライプツィヒ戦の先制点のようにプレースキックという武器もあります。経験豊富で勝負どころを知っている選手ですし、30歳を過ぎてからさらに進化していると感じます」
いぶし銀のディ・マリアの名前を挙げた川口氏は、そのほかにも「進化するベテラン」としてバイエルンのレヴァンドフスキやミュラー、さらにはPSGのチアゴ・シウバの名前を挙げた。30歳を過ぎてもまばゆい輝きを放つ選手たちが、たしかにいる。
バイエルンの守護神・ノイアーもその一人だ。
「バイエルンは高い位置からプレスに行きますが、どうしても背後を突かれる場面が出てきます。そのピンチに立ちふさがり、チームを引き締めているのがノイアーです。今大会のノイアーはとても安定しています。もともとハイラインの背後のスペースをケアできる守備範囲の広さがストロングポイントでしたが、それが裏目に出るシーンもしばしばありました。今のノイアーは一時期と比べるとスタートポジションがそれほど高くない。状況に応じてペナルティエリアを飛び出す場面もありますが、より自然に正しいポジションを見つけられている。キャリアハイとも言うべき円熟味を増したパフォーマンスでバイエルンを支えています」
バイエルンの最後尾に立ちはだかるのがノイアーなら、PSGのゴールマウスを守るのはリコだ。スペイン代表にも名を連ねる実力者でありながら、クラブレベルではナバスの2番手に甘んじていた。しかし準々決勝のアタランタ戦でナバスが負傷。大一番でチャンスがめぐってきた。
「ナバスはレアル・マドリード時代にUEFAチャンピオンズリーグ3連覇に貢献した素晴らしい選手です。ですがリコもセビージャ時代から能力を示していた選手で、彼がサブにいるのは心強いはず。準決勝でのプレーも安定していましたし、リコにとっては名声を上げるチャンスで、大きな野心とともにピッチに立つはず。バイエルンの猛攻をストップすることができればPSGにもチャンスが生まれるでしょう。リコのパフォーマンスが鍵を握っているといって過言ではありません」
最後はGK目線で決勝の行方を占ってくれた川口氏。今大会はGKのたった一つのミスが勝敗を分ける試合も少なくないだけに、両ゴールマウスを守るノイアーとリコにかかる期待は大きい。
勢いのバイエルンか、試合巧者のPSGか。雌雄を決する決戦の幕が、もうすぐ上がる。
(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)