「子供は大人の夢を叶える道具ではない」 夏の大会中止で考え直すべき「部活」の意義
新型コロナウイルス感染拡大により、スポーツ界はこの夏、大きな影響を受けた。とりわけ、甲子園と全国高校総体(インターハイ)の中止は、最後の夏にかけてきた高校3年生の救済を含め、社会問題に。多くのスポーツ選手もメッセージを発信し、子供たちを励ましている。しかし、正解がない未曾有の経験。アスリートを含め、指導者、保護者という大人たちは子供たちにどう向き合うべきか。子供たちはこの状況をどう乗り越えるべきか。頭を悩ませている人は未だ多い。
ラグビー元日本代表メンタルコーチ、スポーツ心理学者・荒木香織氏インタビュー
新型コロナウイルス感染拡大により、スポーツ界はこの夏、大きな影響を受けた。とりわけ、甲子園と全国高校総体(インターハイ)の中止は、最後の夏にかけてきた高校3年生の救済を含め、社会問題に。多くのスポーツ選手もメッセージを発信し、子供たちを励ましている。しかし、正解がない未曾有の経験。アスリートを含め、指導者、保護者という大人たちは子供たちにどう向き合うべきか。子供たちはこの状況をどう乗り越えるべきか。頭を悩ませている人は未だ多い。
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「THE ANSWER」はこのほど、スポーツ心理学者の園田学園女子大教授・荒木香織氏にインタビューを実施。自身も高校時代は陸上競技短距離種目でインターハイに出場した経験を持ち、「ブライトンの奇跡」を演じた15年ラグビーワールドカップ(W杯)日本代表でメンタルコーチを務めたほか、現在も中高生からトップ選手までメンタルサポートを行う。荒木氏は「子供たちは大人の夢を叶えるための道具ではない」と訴え、今回を機にスポーツと部活の在り方を考え直す必要性を説いた。
(聞き手=THE ANSWER編集部・神原 英彰)
◇ ◇ ◇
――インターハイ中止が決まって以降、多くのアスリートから高校生に対して「この経験は絶対、無駄にならないから」と発信するメッセージをよく聞きました。もちろん、憧れの選手からの力強い言葉は高校生の励みになると思います。一方で、それは高校生より長く生きている大人の経験則によるもので、17~18年しか生きていない子供が「無駄にならない」の意味を本質的に理解するには難しさもあると思いますが、どうお考えでしょうか?
「まず『無駄か、無駄じゃないか』より『できれば経験したくなかった』ということが前提にあります。できれば経験しないで、毎年あったはずの練習、試合をして……それが、高校3年生にとっての理想でした。この経験をした学年、世代に何か利益があるかどうかは、将来になってみないと分からない。機会がなくなったことは事実なので、安易な『無駄じゃない』という発信は控えた方がいいのではないかと思います。この夏が高校生活の2年半、もしくは中学校から積み上げたものの集大成と思っていた子たちは『一生懸命やってきたことは一体、何だったのか』という絶望感もあるでしょう。『無駄か、無駄じゃないか』『良かったか、良くなかったか』とラベルを張る仕事は、大人の役割ではないと思います」
――その中で、今、現場では生徒との向き合い方に悩んでいる指導者も多くいます。
「今できることを一緒に考えて、指導者が助けてあげられることはあると思います。今、生徒がどうしたいのかは一人一人聞いてあげないと分からない。高校野球のセンバツは夏に代替大会があり、(他競技では)若干の不公平感を覚える子供もいると思います。まずは思いを聞いてあげることが今、指導者に一番できること。何か答えを出してあげたい気持ちは分かりますが、今は答えを出すにはまだ早いかもしれません。
3年生は3月まで時間はあるので、どれだけ有意義に過ごす手助けをしてあげられるかを考えてほしいと思います。進路についても、スポーツで進学しようと思っていた生徒に異なる選択肢を提案するのも良いかもしれません。代替大会の動きもありますが、都道府県、競技によって差があるので、すべてを平等にインターハイがなくなった解決策として求めていくのは難しいのではないかという印象です。今はそれぞれの地域、それぞれの部活という単位で、良い時間にしていくことが最も大切だと考えます」
――子供たちに関してはどうでしょう? この状況をどう受け止め、何か行動すべきでしょうか。
「子供たちに今できるのは、変化に対応していくことです。15~18歳という時期にこういう経験をしているのは大変ですが、変化せざるを得ない状況にある。あまり『今までと違うじゃないか』『こんなはずじゃなかった』と悲観的に時間を過ごすよりは、今できることは何かと考え、次に向けて準備する時間にする方がいいのではないでしょうか。実際に高校生に話を聞くと、大人が思うほどヘコんでない子供が多く、割とあっさりしている印象。ただ、やはり気持ちにも波があるので、大丈夫と思っていても急にヘコんだりするし、諦めたはずが練習を始めると悔しい思いが戻ってきたりする。そういう時は、一人じゃないと大人が伝えてあげてほしい。横を見れば友達、仲間がいるし、手をつないでくれる人がいるはずだから。そういうことに気づいてもらうのは大切だと思います」