野球取材に見たフィギュア報道のヒント 引退した中野友加里がスポーツ記者になった理由
野球取材で得たフィギュア報道のヒント「選手の裏側にある価値を広めたい」
“外から見たフィギュア”について、率直な思いを明かした。
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「フィギュアスケートは繊細なスポーツです。スポーツではあるものの、クラシックバレエのような芸術も兼ね備えていないといけない。非常に繊細で、精神面も問われるスポーツ。心理的につらい部分もあると思います。とても華やかに見えますが、一方で裏側では女の子はダイエットに苦しんでいたり、実はすごいトレーニングを積んでいたりするもの。
筋力トレーニングも、陸上トレーニングもそうです。そういった部分を取り上げて注目すれば、フィギュア界は華やかに見える一方で、裏側では『努力』という一言で片づけられないくらい、厳しい練習に耐え、取り組んでいるということがもっと多くの人に分かってもらえる。そうなれば、選手たちをもっと応援できる気持ちになれるのかなと思うんです」
芸術の表現者としての顔だけでなく、アスリートとしての顔にスポットライトを当て、華やかさの裏にあるストーリーに共感してもらう。発想のヒントになったのは、プロ野球の取材現場にあったという。例に挙げたのは、グラウンドで見た風景だった。
「試合前の様子が事細かに映されますよね。打者ならバッティング練習の調子、投手ならブルペンのピッチングの様子とか。フィギュアはちらっと朝の状態が流れるだけ。そういう場面で実は重要な練習をやっていたり、本番より面白みがある可能性もあるんです。選手はみんなが知らないところで鍛錬を積み、表に見せないものですが、選手の裏側にある価値をもっと広めたいです」
選手が表に見せず、みんなが知らない姿――。それは、選手だった中野さんだから知っていることがある。前述にある「女子選手の体型維持」も、その一つの例だ。「私自身もダイエットに苦しんだ一人です」と言い、現役時代の壮絶な体験を打ち明けた。
「毎日2回、多い日は3回、体重計に乗る。本当は良くないことなんですが、その増減に一喜一憂してしまうんです。本来は体重を落とさずに筋力を増やさないといけない。でも、今度は筋力を増やすと、体重がどうしても増えてしまう。そうすると『落とさないといけない』という固定観念……いや、恐怖心にとらわれてしまうんです。
とにかく、毎日が体重計との戦い。毎日、体重をつけて増えることが恐怖でしかなかった。朝、増えた日は今日をどう過ごそうか、何を食べて過ごそうかと不安になる。ひどい時は『水を飲んでも太る』と言われていたので、ついにはのどが乾いたら水を口に含んで吐き出したり……ボクサーのような行動をしていた時期もありました」
女子特有の体型変化の影響が少なく、体重の軽い15、6歳の選手が高難度のジャンプを跳び、有利になることもある。そうした背景もあり、現在、フィギュア界はシニアの年齢引き上げも議論の一つになっているが、中野さんは切実な選手の思いを代弁する。
「今の若い選手も同じように苦労していると思う。それを乗り越え、フィギュアスケートの舞台に立っている。華麗なスポーツではあるけど、精神的にすごくタフなスポーツでもあると踏まえた上で、応援する気持ちが生まれるように伝えていきたいです」
フジテレビ退社後は子育てに軸足を置きながら、競技の魅力を伝える解説者のほか、大会で選手を採点するジャッジとしても活動。氷を溶かすほど熱い情熱をもって、フィギュア界のために奮闘している。その礎となったのは、9年間で培った経験にある。
「あの時、多くの現場に足を運ばせてもらった。それは記者になり、スポーツニュース番組に携らないとできないことだった。最初は記者として別の競技に取材に行くのは戸惑いもありましたが、その中で多くの人との出会い、経験が今の私に生きています」
トップスケーターとして活躍したこと、1人の会社員になったこと、外からスポーツの現場を感じたこと。そこで見たすべての景色を糧にして、新たな道を踏み出した今。「中野友加里だから伝えられること」にこだわり、フィギュアスケートと共に歩む。
(16日掲載の第2回は「中野友加里が考えるフィギュアスケートの魅力」)
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)