【今、伝えたいこと】競泳選手が水を失った 苦境に立つ後輩へ、寺川綾「頑張ってくださいと言うのは嫌」
現役選手たちへ、胸中複雑「頑張ってくださいと言うのは凄く嫌」
泳ぐのは一人だが、戦っているのは一人ではない。当然のことにも思えるが、見失いがちな大切なこと。19歳で気づかされた。切符を手にしたアテネ五輪は、女子200メートル背泳ぎで8位入賞。「みんなを喜ばせる」というメンタルが勇気をくれた。しかし、寺川曰く“恩返しをしなきゃいけない”という姿勢ではない。“恩返しの順序”について自分なりの考えを明かした。
「私が思うのは、まずは自分が頑張って、それに結果がついてきて、その結果でみんなが喜んでくれればいいなと。『みんなを喜ばせるために頑張りたい』というのは、少し順序が違う気がするんです。
インタビューをよくさせていただきますが、今のアスリートは凄いですよね。選手としての本質をしっかり貫き通した上で、周りの人に喜んでほしいという感覚を持ち合わせていらっしゃる。一流選手のみなさんが必ずそうおっしゃるので素晴らしいなと思います。だから、今回はこういった状況ですが、まずは自分が目標を成し遂げて、さらに周りにも元気になってほしいという感覚でやってくれると嬉しいですね」
今は自宅でできるトレーニング動画をSNSにアップしたり、ライブ配信で直接ファンと交流したりする選手も多い。今の時代に沿ったやり方に、寺川は「それだけで凄くハッピーになれる人たちがたくさんいると思います。でも、今はそれどころではない選手もいると思うので、できる人たちは余裕があればやってもらえると嬉しいですね」と願った。
自身も今夏の東京五輪に向けた取材を多く予定していたが、コロナの影響でなくなった。外出自粛を続ける中、スポーツキャスターとしてテレビ番組にリモート出演することもあるが「この状況なので、何か明るい話題を探すのに必死です」と苦笑いする。そんな中でも「なんとかスポーツと関連する明るい出来事、前向きになれる出来事を探して、それをお伝えできればいいなと思います」と取り組んでいる。
誰も経験したことがないウイルスとの闘い。コロナ禍でも前を向こうとする現役選手たちに今、伝えたいこととは――。最後の質問に「今の状況で『頑張ってください』と言うのは、もう凄く嫌なんですよ」と複雑な胸中を垣間見せながら、優しく言葉を紡いだ。
「みんなの気持ちを100%わかることはできませんが、オリンピック、パラリンピックはみんなが人生を懸けているので、やはり延期になったことで自分の人生計画が大きく変わる選手もいると思うんです。でも、それを必ず乗り越えてみんながオリンピック、パラリンピックに向かってくるはず。今だからこそ、オリンピック、パラリンピックでスポーツの力を改めて見せつけてほしいなと思います」
いまだかつて誰も泳いだことのない荒波かもしれない。だからこそ、泳ぎ切った先にあるスポーツの祭典が莫大な力を生む舞台になる。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)