阪神を足から変えた“走りのプロ”の革命 選手も驚き「もう10年早く知りたかった」
アキレス腱断裂の西岡剛は「もう一回、盗塁王獲りたいんですよね」と指導を志願
2月の春季キャンプ。調整が一任されているベテラン勢の参加は免除されていたが、投手陣の指導中の2人がいつのまにか隊列に加入。すると、メニューが終わった後、トレーナーから言われた。「トリが個別に見てもらいたいと言っている」と。秋本氏は驚きながらも二つ返事で引き受け、鳥谷の走りを動画に撮って分析した。
課題は脛の筋肉が弱く、後方に流れた足のつま先が落ちること。すぐに該当する部位の補強メニューを教えた。すると、翌日、驚くことがあった。アップ前に一人で走るフォームがもう良くなっていたのだ。
「本人に話を聞くと、前日にホテルに戻ってからメニューをやって、朝起きてやって、出発前にやって、球場に来てまたやってきたと。とにかく実践していた。球団の方に聞くと、とにかくトレーニング熱心で、ストイックな方だなと実感しました」
今年36歳を迎えながら、向上心を持って取り組む“虎のレジェンド”。「自分が鳥谷選手の立場だったら、畑違いの人が来て、わざわざ話を聞きにいくかと考えたら、行かないと思う。一つでも多くのことを学ぼうとする姿勢がすごい」と秋本氏自身も刺激を受けながら指導し、走りは着実に変化したという。
西岡剛はアキレス腱断裂の故障明けで参加を免除されていたが、全体に実施した講義の中で、本人のためになればと「アキレス腱を痛めやすい走り」について話した。翌日、「走り、見てもらっていいですか」とやってきた。「もう一回、盗塁王獲りたいんですよね」という胸中を聞き、走りを見直した。
シーズン中は1~2か月に一度、指導に赴きながら、気になる点があれば個人的に連絡を取り合い、助言を授けた。「ipad」を用いて選手から動画を送ってもらい、遠隔指導も実施。そして、チームとしても内野安打、盗塁の増加という数値として成果が表れ、レギュラーシーズンを終了。「足が速くなった」といううれしさはあったが、それ以上に達成感を覚えたことがある。今季、ランニング中に肉離れを起こした選手がゼロだったことだ。
「以前、指導したサッカーの現場でも同じように肉離れがなくなり、野球はどうかと思っていた。特に投手陣。最初に『投手陣に走りを教えてくれ』と言われた時に『投手に必要なの?』と思ったけど、聞けばポール間走で追い込む時に肉離れをする選手が多いと。体力作りで故障して登板できないなんてもったいない。だから、投手陣は速さより、効率のいいフォームを求めました」