子供がボクシングにハマった母親たちの本音「凄く怖いが…」 井上尚弥杯で聞いた「真逆」の魅力
「喧嘩」から「スポーツ」に、井上尚弥も大切にする姿勢
U-15男子45キロ級に出場した市野獅龍くん(中1)の父は、三重・鈴鹿市にある市野ジムの将士会長。高1の兄は強豪の宮崎・日章学園に進み、ボクシング一家だ。「うちは家がジムなのでやらざるを得ない」と笑うお母さん。物心がつく頃からジムに足を運び、2人とも小1から本格的にグラブをはめたという。
負けてやる気が下がった時に父から「やめていい。自分の好きなところに行きな」と言われたが、結局ボクシングに戻ってきた。母も力強くリングに送り出す。
「子どもたちが主人に教えてもらって強くなって、自信がついてきました。中途半端に練習もしないのに試合に出て、負けて、泣いて、となってしまうとこちらも不安になったり、怪我が心配になったりするんですけど、もう今は全然。もう少しディフェンスメインでボクシングをしないとダメなんですけど、不安はないですね。
やっぱり精神的にも強くなっていますよね。まず自分の体重を作らなあかん。何に対しても負けず嫌いが出てきますね。たとえ何かの大会で優勝したからといって、全く偉ぶらず、常に感謝を持ってほしい。できるところまではサポートしてやっていきたいと思っています」
共通点は一昔前の「不良がやるもの」「喧嘩」から「スポーツ」として認識する人が増え、自己成長にも繋がるということ。近年の世界王者や五輪メダリストによる影響が大きいが、その先頭を走るのは間違いなく井上尚弥だ。
「ボクシングで魅せたい」が信条。対戦相手に敬意を払い、下手なトラッシュトークはしない。強くて、優しくて、クリーンで。お母さんたちの中には「できれば息子には、ボクサーは本当にカッコいいと思ってもらいたいな」と願う人もいた。
井上が所属する大橋ジムの大橋秀行会長もリングサイドで観戦。ボクシングから学んでほしいことを説いた。
「人間って優しくなきゃダメですよね。強くて優しいこと。まずボクシングは自分に打ち勝たなければいけません。自分自身に強いこと。喧嘩が強いとかではなく、自分自身に練習で打ち勝てる。その強さがあって優しさがあります。ボクシングは自分に打ち勝つことが求められる一番のスポーツだと思います」
全員が五輪を、プロを目指すわけではない。かつてはメシを食うため、生きるため、悲壮感を持って戦うイメージだったが、今は人生を豊かにする手段の一つ。ボクシングへの価値観の変化が表れていた。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)