「僕自身バカにされていた」 ボトムアップ提唱者、森保流に感じた“日本型指導”の変化
サッカーの2022年カタール・ワールドカップ(W杯)を戦い終え、日本代表監督を続投することになった森保一監督のチームマネジメントは「ボトムアップ方式」と言われる。選手たちの主体性を引き出したという手法とは、どんなものなのか。森保監督とはかつて広島県内のユース年代指導者同士として交流が始まり、「ボトムアップ理論」を提唱している畑喜美夫さんが読み解き、続投への期待を語った。(取材・文=松本 行弘)
森保一監督と交流、畑喜美夫さんが見た日本代表のボトムアップ型指導
サッカーの2022年カタール・ワールドカップ(W杯)を戦い終え、日本代表監督を続投することになった森保一監督のチームマネジメントは「ボトムアップ方式」と言われる。選手たちの主体性を引き出したという手法とは、どんなものなのか。森保監督とはかつて広島県内のユース年代指導者同士として交流が始まり、「ボトムアップ理論」を提唱している畑喜美夫さんが読み解き、続投への期待を語った。(取材・文=松本 行弘)
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「森保監督のボトムアップ方式というのは、サッカーに限らず、スポーツ界や教育界、ビジネス界なども革新へつなげられる可能性がある。文化も変えられるメッセージを、さらに続けて森保監督から発信してもらえる。ワクワクしますね」
2015年に設立した「一般社団法人ボトムアップパーソンズ協会」の代表としてボトムアップ理論の普及に務める畑さんは、森保監督の日本代表監督続投を大歓迎する。
畑さんは2019年まで広島県の高校教員だった。2006年、監督を務めていた県立広島観音高サッカー部が全国高校総体(インターハイ)で初優勝して、指導法が注目された。みんなが主役、みんなで成長、自ら考え、自ら動く。主体性を育てるために、練習内容やメンバー選考、試合の戦術などを選手たちが仕切った。全体練習は週に2回で、その他の日はフリーで自由にデザインでき、自主練習などは本人たちが判断できた。
畑さん自身、高校は地元の広島から「サッカー王国」静岡の東海大一高(現・東海大静岡翔洋高)へ“留学”し、順天堂大へ進み、年代別日本代表にも選ばれたトップ選手。故郷で公立高の教員になったが、“カリスマ型”で牽引するのではなく、選手主体の運営で普通の公立高校が赴任から10年目に日本一となった。
自らの経験に、学んだビジネス分野の知識などもまとめて「ボトムアップ理論」と名付け、今は教員を辞めて、部活動や企業の組織づくりや人財育成の支援、講演活動、理論に基づいたサッカースクール開講など、普及活動に専念している。
――ボトムアップ理論の視点でカタールW杯を振り返っていただけますか。
「理論のキーワードに『対話重視』があります。ドイツ戦は顕著でした。ハーフタイムに、吉田麻也選手を中心に現場から上がってきた提案により、フォーメーションと戦い方を変えた。スペイン戦に向けては、スタッフの間では2トップで行こうとしていたのを、欧州のクラブで戦っている鎌田大地選手から、1トップ2シャドーのほうが相手の嫌がる守備ができるという提案があり、変えたそうです。まずはそういう提案が(選手から)上がる文化が作られていた。そして、最終的に提案を採用できる姿勢があった。ハーフタイムは15分しかなくて、監督がこうしろ、ああしろと言ったほうが早いんですが、現場の肌感覚を大事にできた。トップダウンだと、監督がこうしようと指示して、現場はそれを表現していくだけなので、選手は思考停止しないと成り立たない。選手に馬鹿にされてはできないので、監督が上に立たなければいけなくて、現場の提案を採用するというのは難しくなるのです」