現役時代の実績で「監督が務まる時代ではない」 欧州事情を知る日本人「サッカーの形が変わった」
科学的データを駆使して「理想から逆算」
欧州ではフィジカルトレーニングの導入なども、個々のデータを取り、それぞれの成長に合わせて組み込んでいくのが一般的だ。
「理想から逆算して、いつからどんなメニューを組み込んでいくのかを検討していきます。基本的には成長が止まるタイミングで導入し、16歳くらいまでにはストレンクス(強さ)をつけていくことになりますが、筋力をつけると逆効果になるタイプもいるので負荷を軽減する場合もある。稀にアフリカ系のスプリンタータイプの選手には、このままのほうが良い、という判断が下されることもあり、怪我に繋がりやすいハムストリングの強化のみに止めるケースもあります」
育成で科学的データを駆使して目を配る範囲が広がっているように、監督の仕事もピッチ上だけには止まらなくなってきている。
「一緒にUEFAのプロライセンスを取得した仲間とも話すのですが、1990年代までは現役時代のキャリアが重要な監督の資質でした。しかしそれから世界規模でサッカーの形が変わり、その中で監督は現場の最高責任者として活動していく必要がある。ピッチ上の仕事だけではなく、オーナーや会長とのやり取りも重要な役割で、スポンサーと二人三脚でクラブを運営していかなければならないケースもある。そうなると監督は、異業種のトップと財務面も含めて分かりやすく理解を得られる言葉で現状を伝えていかなければならない。今でも現役時代の経験は、選手たちの心理状態を把握しピッチ上に落とし込むなどの点で重要な利点になります。しかし、それだけで監督が務まる時代ではなくなっていると思います」
分析の重要性に焦点が当てられ情報戦がクローズアップされがちな昨今だが、監督が時代の先端を切り拓いていこうとするなら、そこで足を止めるわけにはいかない。
「ある大企業のCEOで、私のメンター的な存在の方も話していました。『分析は結論を導く。でもあくまで結論にしかならず、創造には繋がらない』。自分で何かを創り出し時代をリードしていくなら、確固たる先見性を持ち、周りに理解されないのも承知で、上手く人をマネージメントしていくような才覚が必要なのだと思います」