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名将ベンゲルに仕えた男が高校サッカー部指導 不思議に感じた日本人選手の特徴とは

戦術眼はまるでマジック「解決策を見出す判断力に驚いた」

 ペイトンは就任以来、一度もネガティブな言葉を発したことがない。常に泰然自若として「You can do it!」と、とことん選手たちを信じて鼓舞し続けた。上船も日本の指導者の中では異質なほど前向きな言葉をかけ続けるタイプだったが、ペイトンは明らかにその上を行っていた。

 本場のプレミアリーグで戦ってきた指導者だけに、勝負へのこだわりは非常に強く、重要な試合を控えた1週間はコンディショニングに重きを置き管理を徹底した。それまで上船は、そういう時期でも強度の高い試合を組み込んできたが、そこだけは断固として止めた。「選手は勝って自信をつけて成長していくものだ」と主張し、目指す試合に100%で臨むために「もうこれ以上ボールを蹴らせるな」と自主練もセーブさせた。

 ペイトンの戦術眼は、まるでマジックのようだったという。

「長年ピッチに立って最後尾からトップ・オブ・トップの試合を見続けてきたせいか、見えているレベルが違う。すぐに解決策を見出してしまう判断力には驚きました」(上船)

 さらに自らも最高の舞台を経験し、最高級の選手たちを育ててきた人物の言葉は、説得力の次元が違った。

「相生学院はジェリーが来てから決定率が高まりました。シュートは7割の力でコースを突け、と言います。プレミアで戦い続けた一級品のGKコーチが『ここに打てばGKは対応できない』と言えば、誰もが頷くしかない。こうして僕らはゴールが決まるポイントを現場レベルで学んできました」

 ちなみに、今年の高校サッカー選手権兵庫県予選で相生学院は計26ゴールを挙げたが、すべてはトレーニングで実践した形から生まれたという。

「ジェリーはサッカーで起こる状況を分かっていて、それを上手くトレーニングに落とし込んでくれます。だから練習でやったことだけが試合でも起こったんです」(上船)

 ペイトン監督の指導下では、オフサイドという反則はなく、当然オフサイドトラップという戦略もない。上船が解説する。

「最初は僕らも戸惑いました。明らかなオフサイドでも『取るな』と言っていましたからね。真意は、いちいちゲームを止めるな、ということでした。止めてしまうと裏を狙うアクションが減り、攻撃に迫力がなくなる。それにFWが抜け出してGKと1対1の局面が訪れれば、どちらにとっても重要なトレーニングの機会になる。オフサイドトラップはギャンブルだと断じ『絶対にやめろ』と言っています」

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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