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部活指導者は「町工場の経営者」と同じ 学生陸上界の名将、駒大・大八木弘明の指導論

自身の指導哲学について語った大八木弘明監督【写真:松橋晶子】
自身の指導哲学について語った大八木弘明監督【写真:松橋晶子】

復活させた朝練の自転車伴走、いまどきの子供と寄り添った

 本気だから、変わる。目標のために、昨日までの自分を捨てる。大八木監督の行動の指針はいたってシンプルだった。

「本気」を表したものの一つが朝練の自転車伴走。午前6時前からスタートする13キロのランニングに後ろから付くようになった。駆け出しの頃から続けていたルーティンを昨年復活させた。還暦を過ぎた体には堪える。しかし、大八木監督はペダルを漕ぎ、教え子の背中を追った。

 学生No.1ランナーである駒大のエース・田澤廉(3年)は「いきなりでしたね。急についてきて。『俺、明日から付くからな』とか、説明は確かなかったですし、急にいて『あれ、なんでいるの?』みたいな」と笑って振り返ったが、そこに本気を感じた。

「監督自身も選手とコミュニケーションを取って、この選手は今どのくらいの疲労感を持っているか、どういう考えで走っているか、そういうものを知りたいからやっていると思っています。本気を見せることで、一人一人を知ろうという意味があるんじゃないですかね」

 今、多くの学生スポーツの指導者は悩みの中にいる。特徴的なことは“いまどきの子供”とのコミュニケーション。大八木監督もフランクな場になると、選手に馴れ馴れしい返しをされる。最初はイラっとしたというが、それを受け入れた。

 もちろん、馴れ合いではなく、叱る時は叱る。ただ、練習中の会話を見ていると、雰囲気に「緊張感」はあっても、学生スポーツの“怖い監督”に対してありがちな「緊迫感」を選手は持たない。大抵、後者の場合、選手は「次、いつ叱られるのか」という怯えが表情に浮かんでいる。

「学生の目線にだんだんと自分が合わせた。OBたちには『学生時代は近寄りがたかった』と言われました。でも今は『田澤、これでいいな。いや?』『それじゃ、変えよう』と、そんな感じ。息子のようにコミュニケーションを取りながら」

 選手が変わり、時代も変わった。スポーツ指導の現場においては過度なスパルタ指導や勝利至上主義を良しとせず、新しい方向に向かい始めている。大八木監督のように、キャリアがある部活指導者ほど、変化に戸惑いを感じやすい。

「私はスパルタと思われているかもしれないけど、怒っても手なんて出さない。大切なことは実業団に行った時、社会人になった時に通用する人間にすること。人間力が向上しないと競技力も向上しない。この4年間で基礎基本を身につけて人間教育をしっかりとして送り出したいのが私は一番。

 スポーツをやる以上は勝利に執着しないとダメですけど、それだけ選手をやる気にさせること、そのために自分が信念を持ってやっていること。言葉を持って導かないといけないと思っていますから。あとは、指導者自身の行動力でしょうね」

 指導者も知識のアップデートを求められる時代。「時間があればですけど……」と謙遜するが、大八木監督は本をよく読むという。故・野村克也さんのようなスポーツ指導者から、別のジャンルで成功している人の話まで。

「スポーツに限らず経営者とかね。私も一緒ですから。中小企業というか、小さい町工場みたいなもので。50人の選手をやる気にさせて、どう素晴らしいチームにするか。町工場なら、どう黒字にするかと一緒なので。どれだけやる気にさせられるかを考え、参考にしながら選手を導いています」

 最近は「情熱に勝る能力なし」という言葉に目が留まり、そのページを撮ってスマホのカメラロールに収めている。「この言葉、好きなんです。(本来、能力があっても)情熱がない人は能力がない人と一緒で、情熱がある人はそこに何か能力を持っているんじゃないか」という。

 大八木監督自身、選手と同じように成長を求めている。だから、選手は監督を慕い、選手は駒大に集まる。

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