変わろう、野球 筒香嘉智の言葉「勝つ為にやらされる野球になったら、それは不幸」
「この子達にとって、本当に大事なのは明日の試合に勝つとか負けるとかじゃない」
何かを競争する場に身を置けば、そこには自然と優劣や合否が生まれる。だが、育成年代の子ども達の場合、相対的な結果で評価を受けるのではなく、そこに至るまでの過程で見せた努力であったり、前回から見せた個人的な成長であったり、勝敗よりも重んじられるべきことは多い。例えば、技術的なことではなくても「人一倍大きな声で応援できたこと」が評価されてもいい。
筒香がスーパーバイザーを務めるボーイズリーグ・堺ビッグボーイズの小学部「チーム・アグレシーボ」では、空振り三振しても怒られることはない。むしろ「いいフルスイングだったな」「積極的で良かったぞ」と、その姿勢を褒められる。それというのも、子ども達が「また打席に立ちたい。今度はヒットを打ちたい」と自発的な思いを持つことを大切にしているからだ。
勝利から学ぶこともあれば、敗戦から学ぶこともある。ある少年野球チームの見学に行った時、筒香はチームの監督から「明日負けられない大事な試合があるので、子ども達に勝利のアドバイスを送って下さい」と声を掛けられたという。「その時、ふと思ったんです。この子達にとって、本当に大事なのは明日の試合に勝つとか負けるとかじゃないなって。本当に大事なのは10年後にどんな選手、どんな大人になっていることじゃないかって」。筒香はこうも続けた。
「残念ながら指導者の中には、子ども達を勝たせたいという思いが、徐々に『試合に勝つ=自分の指導力の評価』に変わってしまった人がいる。試合に勝てば、それを教えた自分が偉い、みたいに。大会での優勝を自分の手柄のように考えている指導者は少なくないと思います。だからこそ、勝つことが全ての勝利至上主義に走ってしまい、勝者だけが市民権を得て、負けたら何の価値もないという考え方になるんじゃないかと。人それぞれの感覚はあるでしょうが、正直、僕にはその感覚はちょっと分からないです。教えた子ども達が自分にとって一番いい道を歩んでくれることが、指導者の喜びやうれしさに繋がると思うので」