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日本サッカー屈指の名将と“アメ”の使い方 「悪い時は友だちがいなくなるけど…」

「クビだと思った」通訳にかけたオシムの一言

 元日本代表監督のイビチャ・オシムなどは、まさにその代表格だった。拙著『サッカー通訳戦記』の中で、ジェフユナイテッド市原(当時)時代にオシムの通訳を務めた間瀬秀一と、こんなやり取りがある。ある時、間瀬は自分の通訳のせいで二度立て続けにトレーニングを中断させてしまい、オシムの罵声を浴びる。

「だったら他の通訳でやってくれ!」

 間瀬は吐き捨てて、ピッチを出てしまった。間瀬は、これでクビだと思った。帰りのチームバスの中でも、オシムとは一言も話さなかったそうである。だがバスを降りると、オシムが話しかけてきた。

「オシムさんは“ケーキ食うか”と、わざわざ自分で買ってきてくれたんです」

 ジェフ時代のオシムは、練習では元オーストリア代表FWマリオ・ハースと、周囲には決裂するとしか思えないような言い合いを何度も繰り返したという。しかし実際に試合になれば、オシムは平然とハースを使った。プロなら指導者も選手も、物事を改善するために意見をぶつけ合うのは当然だという認識が共有されていた。

 結局クラマーやオシムは、人として選手たちにしっかりと向き合った。だが残念ながら、上意下達が染みついた日本の多くの体育会や部活には、その根本が欠落している。(文中敬称略)

(加部 究 / Kiwamu Kabe)

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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