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高体連の環境に疑問 淡路島で実現した「3年間同じ部活」に縛られない理想の育成

チーム全体で「自責志向」を貫いた【写真提供:相生学院】
チーム全体で「自責志向」を貫いた【写真提供:相生学院】

チーム内で徹底した「他人のせいにしない自責志向」

 実際に福井悠人は、3年次にカマタマーレ讃岐への入団が内定。本人が高校選手権への出場を希望したため特別強化指定選手の形を取ったが、その時点で淡路島を離れ讃岐のトレーニングに参加し、J3の公式戦でもプレー。急成長を遂げ、高校生同士の試合では明らかに余裕ができて、選手権予選でも別格のパフォーマンスを見せた。ただし福井は明らかな長所が際立つ反面、守備への貢献は限定的で、そこはなかなか変わらなかった。すると上船は、福井が憧れていたスペインで当時活躍中だった乾貴士(現セレッソ大阪)と連絡を取り、いかに守備が大切かを説いてもらった。

 そもそも上船自身が、無名の中学生時代を経て神村学園で全国高校サッカー選手権出場を果たし、東京国際大学でもレギュラーを奪取。ドイツ4部のKFCユルディンゲンとのプロ契約に漕ぎつけたキャリアを持っていた。

 諦めなければ絶対に夢は叶う――それが上船の持論だ。だから「好きなことを仕事にできて本当に凄いですね」と声をかけられると、内心でこう反駁(はんばく)する。

「それはあなたが好きなことを仕事に選ばなかっただけではないですか?」

 どこまでもポジティブ志向な上船の辞書に「妥協」という文字はない。普通の高校生がプロに挑戦するのだ。トレーニングだけに止まらず、日々の生活でも1分1秒も無駄にしない意識づけを求め続けた。

「プレーの質はもちろん、トレーニングに臨む姿勢、試合中のコーチングの量、良い空気感を作るための声かけ、メニューが切り替わる間のコミュニケーション……、すべてにこだわりました。適当にトレーニングをして適当に帰るというのはあり得なかった」

 当初はゲーム中でも、他人のプレーに苛立ち感情的になるケースが目についた。

「オイ! 早く(パスを)出せよ」

 上船は即座に注意をした。

「アドバイスはいいけど(他人への)文句はやめろ。チームの空気を壊すな」

 こうして上船は、一つの重要な指針を掲げる。

「いつも指先を自分に向ける。ウチのチームは、他人のせいにしない自責志向を貫くんだ」

 それでも上船の言葉が響かない選手たちもいて、プロジェクトがスタートして最初の夏には半数近くの部員が辞めている。最初のインターハイ予選は、GK不在で元気な選手が10人。足の手術をしたばかりでスパイクも履けない本来ボランチの日高光揮をゴールマウスに立たせて臨むが、地区大会2回戦で敗退した。また淡路島リーグでは、辛うじて7人をピッチに送り込みなんとか試合だけは成立させたが、二桁失点の惨敗を喫した。

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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