入学数か月で10人退学 異端の通信制高校、選手権出場まで1勝に迫った一期生の3年間
発足からわずか3年で、全国高校サッカー選手権の舞台にあと一歩と迫ったチームがある。淡路島を拠点に活動する兵庫県の相生学院高校サッカー部は、県大会決勝で滝川第二高校に0-1で敗れたものの、強豪相手に互角の攻防を演じた。彼らはいかにして、その場所へと駆け上がったのか。通信制高校として、育成年代の新たな可能性を示した総監督の上船利徳と選手たちの3年間を振り返る。(取材・文=加部 究)
連載「高校サッカー革命児たちの3年」第1回、躍進した相生学院が兵庫県大会で準優勝
発足からわずか3年で、全国高校サッカー選手権の舞台にあと一歩と迫ったチームがある。淡路島を拠点に活動する兵庫県の相生学院高校サッカー部は、県大会決勝で滝川第二高校に0-1で敗れたものの、強豪相手に互角の攻防を演じた。彼らはいかにして、その場所へと駆け上がったのか。通信制高校として、育成年代の新たな可能性を示した総監督の上船利徳と選手たちの3年間を振り返る。(取材・文=加部 究)
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上船利徳が「エリート人材育成淡路島学習センター」を起ち上げたのは3年前のことで、本サイトでも「プロを目指す選手たちやエリートになれる人材の育成」を掲げる当時25歳の校長の抱負やビジョンなどを紹介した。そして一期生が最上級生になり、早くも成果は表れた。
上船が総監督としてチームを率いた相生学院は、全国高校サッカー選手権兵庫県予選で決勝まで進み、岡崎慎司、加地亮ら日本代表選手たちを輩出してきた伝統校の滝川第二を最後まで苦しめた。しかも一期生の福井悠人は在学中にカマタマーレ讃岐の一員としてJリーグにデビュー。複数のJクラブで練習参加を経験してきた日高光揮ら3人の選手たちも、ドイツへ渡り引き続き夢を追う予定だ。
確かに淡路島には、2002年日韓ワールドカップでイングランド代表などが使用した天然芝のピッチや人工芝の室内練習場、フットサルコートなどがあり、随時それらの施設を利用できる恵まれた環境があった。また通信制の利点を活かし、午前中からトレーニングに励み、空き時間を個々の裁量で効率的に使うことも可能だった。しかし、いくら好条件を揃えても、新設したばかりの通信制高校が、いきなり有望な中学生を集めるのは難しい。一期生の中には、全国大会のピッチに立ったことのある選手が1人もいなかった。実際に発足当初は、近隣の街クラブで1学年下のジュニアユースのチームに敗れていた。
もちろん上船は、プロを目指す志の高い選手たちを募った。だが中学年代でも国内のトップレベルを体感したことのない選手たちに、言葉だけではプロの厳しさは伝わらない。
上船には明治大学サッカー部での指導経験がある。例えば2020年の同校サッカー部卒業生は、15人中12人がJリーガーになった。大半がプロになる環境だったので、そこに辿り着くための基準は把握していた。だから淡路島のトレーニングの中でも、コントロール、パスのスピードや質、受ける前の予備動作やデュエルも含めて、自分の知るプロの基準を求め続けた。ただし反面、彼らに理解してもらうには、体感してもらうしかないとも考えていた。そこで敢えて大学生や社会人チームなど格上の相手との練習試合を、積極的に組み込んでいった。
「初年度は先輩がいなくて文化もない。でも『初年度だから仕方がない。どこの学校も最初は弱かった』と言い訳はしたくなかった。僕を信じて淡路島へ来てくれた選手たちを、未来の土台にはしたくなかったんです」