アスリートにとって睡眠が重要である理由 指導者も試合、練習、栄養ほど関心なき現実
競技特性や選手の個性に合わせ、最適な睡眠指導が必要
――スポーツ指導の現場で、西多先生が課題に感じていることはありますか?
「競技特性やスポーツ選手の個性によって、最適な睡眠時間やタイミングが全然違うのに、どの選手にも同じような睡眠のあり方が勧められていることは課題だと思っています。
スポーツとひとくくりに言ってもたくさんの種類があります。走り込み練習が必要な競技もあればそうではない競技もありますし、競技によって練習メニューは異なります。それに伴って、練習時間や練習場所も競技種目によってバラバラです。
また、選手それぞれの個性にもばらつきがあります。高校生まで夕方の練習が中心で調子の良かった選手が、大学生になって朝練中心になると成績が落ちてしまうケースがあります。
だからこそ、今後研究を重ね、取り組む競技種目や、個人の特性の違いを把握し、選手それぞれにとって最適な睡眠方法とは何かを解き明かしたいと考えています。ほかにも、スポーツ選手にとって適切な仮眠のあり方、ナイトゲームが選手の睡眠に与える影響、などはこれから研究してみたいテーマでもありますね」
※1「クロノタイプ」 個人が一日の中で、どの時間帯がもっとも活動的であるかを示す時間的特性のこと。一般に「朝型」「夜型」などと区別される。朝早く目覚め、早い時間帯に活発に活動し、夜は夜更かしができず寝てしまう人は「朝型」と呼ばれる。逆に、遅い時間に起き、昼間元気が出ないが夜から目が冴え、深夜まで起きている人は「夜型」と呼ばれる。
※2「空間認知能力」 物体の位置・向き・大きさ・形・速さ・物体どうしの感覚などをすばやく正確に認知する力。
※3「スリープテック」 質のよい睡眠を誘う装置や睡眠中の心拍や深度を計測する機械などに用いられるテクノロジーのこと。テクノロジーを応用して、眠りを誘発する光と音による刺激が与えられるアイマスクや、睡眠の状態にあわせて照明やサウンド、エアコンの設定温度などを制御する装置などがある。
※4「ウェアラブル端末」 衣服や腕、首など身に着けられる装置や小型のコンピューターのこと。手首につけることで、心拍数など情報を収集し、健康管理をする腕時計型デバイスや、ウェアの一部として装着し移動距離や運動量を計測するためのGPS通信を行うデバイス、耳に装着することでハンズフリーで通話可能なイヤホン型デバイスなどがある。
※5「AI」 Artificial Intelligenceの略。人工知能と訳される。その定義は専門家の間でも定まっていない部分もある。基本的には、人工的に作られた人間のような知能を持つシステムや装置のことを指す。
※6「睡眠障害」 睡眠に何らかの問題がある状態。症状としては不眠、過眠、就寝時の異常感覚、睡眠・覚醒リズムの問題など。
参考:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-027.html
※7「レジスタンス運動」 筋肉に抵抗(レジスタンス)をかける運動のこと。スクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニングがこれにあたる。
※8「コンディショニング」 パフォーマンスを最大にするため身体的な準備を整えること。コンディショニングを行うためには、筋力や柔軟性、全身持久力をなどさまざまな要素を総合的に調整する必要がある。
※9「成長ホルモン」 成長ホルモン(Growth Hormone)とは、脳下垂体から分泌されるさまざまな作用のあるホルモンの一種。身長を伸ばす作用、筋肉や骨や皮膚を強くする作用、脂肪を分解する作用などがその一例。
※10「徐波睡眠」 ノンレム睡眠のうち、周波数の低い成分(徐波成分)が多い睡眠のこと。睡眠の分類の中でとくに深い睡眠にあたるので、熟睡感と関連があるとされている。
(記事提供TORCH、後編「中高生の睡眠時間は『8~9時間の推奨を』 良質な眠りを実現させる4つの要素とは」へつづく)
■西多 昌規 / 精神科医(医学博士)早稲田大学・准教授
1970年生まれ、石川県出身。1996年東京医科歯科大学卒業。東京医科歯科大学助教、自治医科大学講師などを経て、早稲田大学スポーツ科学学術院・准教授に。ハーバード大学医学部、スタンフォード大学医学部にて留学研究歴がある。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会専門医、日本老年精神医学会専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクター、日本スポーツ精神医学会理事など。専門は睡眠医科学、身体運動とメンタルヘルス、アスリートのメンタルケアなど。著書に『「テンパらない」技術』(PHP研究所)、『休む技術』『集中力を高める技術』(大和書房)など多数。
(ドットライフ・種石 光 / Hikaru Taneishi)