新谷仁美らを育てる陸上コーチ・横田真人 選手たちの“その後”を本気で考える指導論
チームをゼロからつくるチャンスが訪れた
――以前からコーチの仕事に興味を持たれていたんですか?
「いえ、コーチになろうとは思っていませんでした。私はとにかく自分で考えることが好きなんですよ。現役時代は自分でプランを練り、次はどんなレースにしたいか考えて練習する。でもコーチがいると、その楽しみが奪われてしまうじゃないですか。
コーチとディスカッションできたり、自分の意志が反映されたりするなら良いかもしれません。でも多くの場合は、コーチの指導法やメソッドに従って練習しなくてはならない。だからこれまでコーチをつけたことはありません。私自身が『コーチは必要ない』と思っていたので、コーチになるなんて考えていなかったですね」
――では、なぜNIKE TOKYO TCのコーチになることにしたのでしょうか?
「NIKE TOKYO TCの話を持ちかけられたのは、ちょうどアメリカの陸上、中長距離が強くなり始めていた頃でした。向こうのチームの知見を日本に持ってくるために、まずは留学してくれと言われたんです。仕事として留学をしながらアメリカの情報を得られるなんて、ありがたい話だなと思いました。
そしてアメリカから帰ってきたら、NIKE TOKYO TCでチームをゼロから作ってほしいという話でした。普通なら実業団に入ってアシスタントコーチを経験してから、コーチや監督になります。でも、そんな下積み期間を経ずにチームを持てるなんてチャンスじゃないですか。だから、お話を受けることにしたんです」
――NIKE TOKYO TC解散後もコーチを辞めず、ご自身でクラブを立ち上げた理由を教えてください。
「NIKE TOKYO TCの頃から教えている選手をはじめとし、私を頼ってくれる選手がいました。そんな状態で、もう辞められませんよね。
そしてもうひとつ、陸上界、ひいてはスポーツ界全体を良くしたいから、という理由もあります。スポーツ界には未だにアナログな部分が多く、運営スタッフに大きな負担がかかり、運営に新しい人を巻き込みにくい。そんな状況を変えるためにも、きちんとしたシステム整備が不可欠。現在、競技大会のエントリーシステムを開発しています。これはスポーツ界として意義のあることだと思っています。
でも私がビジネスマンだと、誰も話を聞いてくれません。やはりコーチとして選手を指導し、毎日現場に行っているから、運営を統括する側の人も話を聞いてくれるわけです。コーチとビジネスマン、二足の草鞋を履いているからこそできることがあると思っています」