プロ野球でも「負けたら罰走」という現実 なぜ、指導者はミスを罰で解決したがるのか
「追い込ませたからOK」の意識に…そんな指導に酔っていませんか
――それは多くの指導者が思い当たる節があるかもしれませんね。
「ある高校のサッカー部の先生と走り方の指導について話したことがあります。その先生は『いいか、姿勢が大事だから』と何度も繰り返して言うけど、できない子がいると『さっき、言っただろ』と言ってしまうと。僕が思ったのは『彼にとって1回目の助言かもしれない』ということ。例えば、最初に言った時に他のことを考えていて聞いてなかったかもしれない。なので、2回目でも『彼の中で1回目だったんだ』と思えば、何回言ったっていいんじゃないかということです。
ずっと姿勢のことを意識して聞いていた選手からすると『また言ってるわ』と思います。でも『また言ってるわ』で、また意識できる。結果的にそれでいいじゃんと。今日初めて教わることは何回言われても、うざくない。言う側からすると、しつこいかなと思ってしまうけど、聞いている本人は『1回目』かもしれない。そういう話をすると、その先生は猛省していました。サッカーは常にいろんなことを考えないとプレーできない競技なので、何か他のことを考えていて気を取られていたかもしれない。大切なことは、指導者がいかに選手に対して根気強く向き合って言うかだと思います。
例えば、野球界でも試合中に起きたエラーに改善策を挙げず、罰を与えている可能性はあると思います。何回も何回もやって体に染み込ませるのは分かりますが、一方で相手が苦しんでいたり、ノックして捕れなくて満足したりしている指導者もいるんじゃないかと思います。“追い込ませたからOK”という意識で。ただ、試合中にヘトヘトになり、疲労困憊の状態で球を受ける瞬間って、実際にあるのでしょうか。バレーボールもそうかもしれません。そのあたりが僕にはよく分からないんです。コーチがそういう指導に酔っていませんかと聞きたくなってしまいます」
――秋本さんは競技によって選手からすぐに指導者になる仕組みについても疑問を感じているようですね。
「勝手なことを言えば、指導者になれる『構造』から見直さないといけないんじゃないかなと思います。良い悪いは別として、野球の場合はライセンスがなく、監督になれる基準が現役時代の結果だったりします。サッカーはライセンス制度がありますが、海外と日本で共通するものではありません。現に本田圭佑さんはライセンスを持っていなくてもカンボジアの代表監督をしています。
学校の部活という視点で考えると本業は先生なのですが、指導者との掛け持ちに先生方も疲弊してしまうケースも多く見受けられます。ライセンスも誰が作って誰が決めたのかということも重要だと思います。という風に何が正しいかの線引きがない。今がベストですという仕組みもあるかもしれませんが、長い時間をかけてでも『構造』から見直す必要があるのかなと思っています」
■秋本真吾
1982年生まれ、福島県大熊町出身。双葉高(福島)を経て、国際武道大―同大大学院。400メートルハードルを専門とし、五輪強化指定選手に選出。当時の200メートルハードルアジア最高記録を樹立。引退後はスプリントコーチとして全国でかけっこ教室を展開し、延べ7万人の子どもたちを指導。また、延べ500人以上のトップアスリート、チームも指導し、これまでに指導した選手に内川聖一(東京ヤクルトスワローズ)、荻野貴司(千葉ロッテマリーンズ)、槙野智章、宇賀神友弥(ともに浦和レッドダイヤモンズ)、神野大地(プロ陸上選手)ら。チームではオリックスバファローズ、阪神タイガース、INAC神戸、サッカーカンボジア代表など。昨年4月からオンラインサロン「CHEETAH(チーター)」を開始し、自身のコーチング理論やトレーニング内容を発信。多くの現役選手、指導者らが参加している。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)