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プロ野球でも「負けたら罰走」という現実 なぜ、指導者はミスを罰で解決したがるのか

多くのトップ選手を指導する秋本さん(右)、スプリントコーチとして罰走に感じるリスクとは【写真:@moto_graphys】
多くのトップ選手を指導する秋本さん(右)、スプリントコーチとして罰走に感じるリスクとは【写真:@moto_graphys】

スプリントコーチとして罰走に感じるリスク「めちゃくちゃあります」

――子供たちからはどんなリアクションがあるんですか?

「自然と起きた現象を遡るようになります。そこはミスした時のコーチングと一致します。挙がってくるのは『○○君が先に行ったから』とか『みんな一緒に行けなかった』とか、なんで失敗したかというリストができてきます。そうなると、次は失敗しないためにどうしたらいいかの作戦が始まり、解決に向かっていきます。その手順は社会と一緒だと思うんです。仕事で起きたミス、人間関係のいざこざ、チームの失敗、すべて同じ。なんで失敗が起きたかの原因からすべて解決を見い出していくものです。

 なのに、スポーツの指導では『俺の時代はこうだったから』という理由だけで選手に罰を与えることで終わらせがちです。でも、一方で鬼のようなノックを受けた選手が『あれでメンタルが鍛えられました』と言っているコメントを見かけると、本人がそう言っているので、成功なのかなとも思ってしまいます。同じように『あの罰走で鍛えられた自分がいるから成長できた』と罰を受けた側が言うなら、成功になってしまいます。これがすごく難しいところで、選手も本当にそう思っているのかと気になります」

――いろんな競技を取材すると、指導者のしごきに近いエピソードはよく聞きますが、彼らがそれを前向きに話すのは、これだけ苦しい経験をし、時間を使ったのだから、自分の中で正当化しないと消化し切れない感情もあるように思います。心のどこかで『嫌だ』『こんなの無駄だ』と思っていても選手は拒否できないので、やってしまったことは意味があると思わないと悲しくなってしまうのではないかと。

「本当にそう思います。これは本人しか分からない話ですが、指導者の僕からすると、罰を与えるのではない他の形でやっていたとしたら、もっと変わっていたかもしれないとは思います」

――罰走がクローズアップされる機会が増えましたが、走りを教えるプロスプリントコーチとして何か罰走に感じるリスクはありますか?

「めちゃくちゃあります。いろんなプロスポーツのキャンプなどを見ていると、フィジカルコーチが“タイム取りをしている人”になっていることもありました。選手に『はい、何秒で何本行って』と言って走らせ、『何秒足りない、もう一本行け』って。『次の一本、タイム切れなかったら何本追加な』となると、選手は避けたいと思うので、走り方はぐちゃぐちゃ、パワーでカバーしようとして結果的に肉離れが起こりやすくなります。

 例えば、野球の投手ならどうでしょうか。『1000球投げ込め』と言って、めちゃくちゃなフォームのまま肩が壊れるのは誰もが分かることなのでコーチもやらせないと思います。じゃあ、走らせるかということで、結果的に罰走で誤った走り方が定着する、怪我をするリスクが高まる、走りは運動の基礎・基本を作るのに大切なのに嫌いになる。マイナスしかないと思うんです。だからこそ、僕のような職業が走ることって楽しいんだと思わせるようなコーチングをしないといけないと強い使命感を持っています」

――走りを追求する秋本さんならではの視点ですね。

「以前、小学校で講演した時に『できる人とできない人どっちを応援しますか?』という質問を受けたんです。その学校はみんな質問の感度が高く、感動しました。それで、僕が伝えた回答は『どっちも応援する』でした。どちらかということは基本的にない。できる人がいたら、もっと良くなるようになるように応援するし、できない人がいたら、できないことは普通だからと思っている、ということを話しました。そもそも、速く走る方法を最初から知っている人なんていません。

『できない』から始まっていることが前提として考えているので、『こんなことできないの?』『足遅い、ダサイ』なんて全然思いません。それぞれの足の速さをスタートと考えればいい。ほんのちょっとでも腕振りが変わった、姿勢が変わった、足の落とし方が変わった……そういうことを僕はプロだから見逃さないので、そこを評価します。だから、全員ができるようになることを頑張ることが大切です。でも、いまだに『なんで何回やってもできないんだ』と怒る指導者もいます」

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