「『適切な競争』を用意し、成長する機会を提供」 新時代のスポーツ指導者があるべき姿
日本を引っ張るリーダーが、スポーツ界から輩出される環境づくり
――子どものスポーツへの親の関わり方も変わってきましたね。
「親の関わり方もずいぶん変わりました。20年ほど前は、サッカー経験者の親がいなかったので、指導者に全て任されていたように思います。だから指導者も、親の評価を過度に気にせずに指導できたんですが、今は親の中にも経験者が増えてきたので、親の考え方と指導者の考え方が一致しない状況も生まれてしまいます。
そうなると、親の関わり方によっては、選手である自分が上達しないのはトレーニングのせい、ひいては指導者のせいだと考えてしまうこともあります。このような状況で生じる問題として、自分と向き合うことができないと成長が止まってしまうので、その考え方になってしまう子どもたちがかわいそうだなと思いますし、そうなってほしくないので親の皆さんには気を付けていただきたいと思います。
期待や応援、サポートをしてあげて自己分析を手伝ってあげる、難しければ共感してあげるだけでもいいと思います。そこで親が子どもにダメ出しをしてしまうと、その言葉は子どもの中に強く残りますから。試合でも親の目線を気にして試合に集中できなくなってしまう。そんな状況は避けるべきだと思います。期待しすぎるというのは、『強いる』ことにつながってしまいます。子どもが好きでやっていることをただ応援してあげる、それで良いのではないでしょうか」
――先生のお話を聴いていると、現状存在する仕組みや、やり方はそれぞれに良さ悪さがあり、人を育てるという大前提のもとで個々に活用していく、という風に感じたのですが、一番根底にあるのはやはり人づくりですか?
「自分と向き合って成長する考え方を身に付けてほしいと考えています。大きくなってから身に付けることもできますが、20歳で知るのと10歳で知るのでは30歳になったときに大きな差ができますよね。
スポーツ界に限らず、日本を引っ張るリーダーがスポーツを通して育つようになれば、スポーツの価値ももっと上がりますよね。スポーツ出身の方のセカンドキャリアが注目され、その選択肢が増えていけばよいと思っています。スポーツ選手は、スポーツを通じて問題分析や問題解決をし続け、そして内省的な目を持つ経験をしてきている。すなわち、成長し続ける土台を身につけているはずなんです。このような人たちがもっと社会で活躍し、スポーツ選手あるいはスポーツを行うことに対する社会の評価が高まることで、スポーツの価値も再認識されていくと思います」
■広瀬統一(早稲田大学スポーツ科学学術院教授/なでしこジャパンフィジカルコーチ)
1974年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、東京ヴェルディでインターンとして2年間従事した後、3年目から本契約。2006年に東京ヴェルディを退団後、早稲田大学教員として従事しながら、名古屋グランパスに入団。2008年からは名古屋グランパス、JFAアカデミー、なでしこジャパン(サッカー女子日本代表)、大学教員を並行して携わる。2009年に名古屋グランパスを退団し、京都サンガへ。スポーツ外傷・障害予防とコンディショニングをテーマに、若年層から成人まで幅広い年齢層を対象に研究を行う。2009年、早稲田大学スポーツ科学学術院専任講師に就任し、2015年より現職。
(記事提供 TORCH)
https://torch-sports.jp/
(今井 慧 / Kei Imai)