なぜ「高額な月謝」でも人が集まるのか 日本一を目指す育成クラブの緻密な“価値提供”
幸野健一が創設したFC市川GUNNERSは、月謝を2万6000円に設定している。
【幸野健一が挑む日本のスポーツ文化改革|第5回】少数精鋭のFC市川GUNNERS、保護者への分析映像や個々の面談も実施
幸野健一が創設したFC市川GUNNERSは、月謝を2万6000円に設定している。
公共施設等の運営に民間の資金やノウハウを活用するPFI(Private-Financial-Initiative)方式を利用して人工芝のピッチなどを作ったが、ファンドへ返済していくためには高い収益力が求められる。「おそらく日本で一番高い月謝」でも人を集めるには、それに見合った価値を提供する必要があった。
「小学生は1学年16人に限定し、全員を40%以上試合に出す。また3か月間に一度は体の組成を調べ、フィジカルテストを行い、サッカーの各項目を評価した通信簿を手渡して、年に二度は面談をします。今は身体が小さくて弾き飛ばされてしまう子がいても、成長曲線を説明し『大丈夫、まだ4つの成長段階の最初の時期なので、しっかり栄養のある食事を摂らせてください』などと、個々にアドバイスを送っています」
さらに分析アナリストを雇い、彼が作成したフルマッチや分析の映像を、試合後すぐに保護者専用のYouTubeチャンネルで共有できる。先日幸野は、別の少年団から移って来た子の父親から挨拶をされたという。
「今までは仕事が忙しくて、なかなか子供の試合を見に行くことができず、嫌がる奥さんにビデオを撮らせていたそうです。もちろん、試合をするのも土のグラウンドで、招待大会でチームは優勝しても自分の子供は出ていない。顔では笑っているけれど、心が傷ついていたのは明白だったといいます。でもここでは素晴らしい環境で、必ず試合に出ていて、『この間なんか、ウチの子がヒーローみたいな分析ビデオまで上げてもらって、親戚中に配ってしまいました。5万円払っても安いくらいです』と感謝されました」
一方クラブには、明確な育成メソッドとプレーモデルがある。「攻撃」「守備」「攻撃から守備」「守備から攻撃」という4つの局面で、どんなプレーを目指すのか。そしてポジションごとの役割が明確に記され、指導者が変わっても共有されていく。
「これは言わばショートケーキの土台です。天辺の部分ではコーチの裁量があっても良いけれど、土台が揺らいではいけない。僕もスペインでセルタやバジャドリードのプレーモデルや育成メソッドを見せてもらいましたが、やはりクラブとして物凄い蓄積がありました。ところが日本では、ほとんどのクラブで肝心な土台がない。これでは免許もないのに運転をさせているようなものです」