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猛特訓は「ナンセンス」 育成のエキスパート、選手を納得させる“論理性”を追求

菅澤大我の指導者としてのキャリアも優に20年間を超えた。長く育成に携わり、ジェフユナイテッド千葉ではトップチームのヘッドコーチも務め、現在はなでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)2部のちふれASエルフェン埼玉の監督として3年目を迎えている。

早くから育成指導者として名を馳せ、現在も指揮官としての辣腕ぶりを見せる菅澤大我氏【写真:加部究】
早くから育成指導者として名を馳せ、現在も指揮官としての辣腕ぶりを見せる菅澤大我氏【写真:加部究】

【“読売育ち”菅澤大我、気鋭コーチの育成論|第3回】東京V退団後に指導者としての成長を実感

 菅澤大我の指導者としてのキャリアも優に20年間を超えた。長く育成に携わり、ジェフユナイテッド千葉ではトップチームのヘッドコーチも務め、現在はなでしこリーグ(日本女子サッカーリーグ)2部のちふれASエルフェン埼玉の監督として3年目を迎えている。

「育成部門なら、もう選手の親が同級生やそれ以下の年齢になる。当然保護者も選手たちの気質も変わってきています。今は選手のほうが指導者に『なに、それ?』と言える時代。指導者は選手を思い切り上回る知識を持ち、論理的に解決する能力がないと認めてもらえない。そういう意味では良い時代になってきました。昔はハーフタイムにシャトルランをやらせたチームが勝ってしまう光景を横目で見ながら、『それが問題の解決なの?』と不思議に思っていた。さすがにそういうのは、あまりなくなってきていると信じたいですね」

 かつては育成へのこだわりが強かったが、考え方は変わった。

「ジェフではトップのすべてを任され、こうして女子も指導してみて、選手を育てることと、思い描くサッカーで勝負をするということは両立できると考えるようになりました。年始にプロばかり集めて4日間ほど合宿をするんです。もう3000~4000万円くらい稼いでいる選手もいますが、まだ実際に下手で『なんでそこで逆取れないの?』『いくら稼いでいるんだよ』などと軽口を叩きながらやる。でも上に行くほど上手くなりたいと思っていて、そういう姿を見ると嬉しくなります」

 優秀な選手を集めてきたので、必然的にワンサイドの試合が増えた。森本貴幸(アビスパ福岡)や久保裕也(FCシンシナティ)は面白いようにゴールを奪えたが、敢えて質を追求するために厳しく叱責した。

「たまたま相手のGKが小さくて入ったようなゴールの後は、無茶苦茶怒りました。『そのシュート入らないから! 相手がブッフォンだったら無理でしょ』と。逆にGKが半歩動いたのを見て狙っているなら枠を外しても正解。本人たちも納得していました。こうして試合でも課題を設定しておく。成功しながら伸びていくのは、彼らのように体育が“5”の選手の特権です。結局プロでは、この形になったら決めるというパターンをいくつか持っていて、判断というより反射に近い速度でプレーできないと苦しい。反復が必要になります」

 しかし、何かを極めるために猛特訓はしない。

「好きじゃないしナンセンス。もともと今日1日で上手くなるわけないだろ、という割り切りがある。逆に急にできるようになることもあり、その日は絶対にやってくる」

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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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