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「乗り越えろ!」は大人のエゴ ドイツで感じた“子供らしさ”との向き合い方

それぞれのやり方で取り組む子供たちの姿は、それだけでとても感動的

 求めているもの、大切にしているものが違うのならば、そこで生まれる光景だって違ってくる。みんなで一生懸命練習して、しっかりした舞台にして、大きな拍手をもらう光景だって素敵だ。でも僕は、子供の発表会で感動するってこういうことなのかと、その時素直に感じたのだ。発表会がきちんとしているかどうか、完成度が高いかどうかだけで、子供たちの価値をはかることはできないんだって。そしてサッカーでも、他のスポーツでもこれは同じことなんだろうなって。

 僕たち大人は「よかれ」と思って、子供たちにあれこれとたくさん口を出す。そして「できるようになった」ことに満足して、感動することが日々たくさんある。

 でも、子供は別に「大人を感動させる」という目的のために存在しているわけではない。もちろん、大好きなパパやママや先生が喜んでくれたら嬉しいだろう。それだって素敵な感情だ。だが、自分が「楽しい」「できるようになりたい」と思っていることに、それぞれのやり方で取り組む子供たちの姿は、それだけでとても感動的ではないか。

 きっと大人の役割は、基本的にはそうやって取り組む子供たちの安全を確保しつつ見守り、終わったらその頑張りを認め、全力で拍手を送ることなのだ。感動を上乗せしたいがために、「子供のために」という大義名分を盾にして、勝手に子供に高いハードルを課して、「乗り越えろ!」なんてお尻を叩く必要は全然ないんじゃないだろうか。

(中野 吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野 吉之伴

1977年生まれ。ドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。ドイツでの指導歴は20年以上。SCフライブルクU-15チームで研鑽を積み、現在は元ブンデスリーガクラブであるフライブルガーFCのU12監督と地元町クラブのSVホッホドルフU19監督を兼任する。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に『サッカー年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)、『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)がある。WEBマガジン「フッスバルラボ」主筆・運営。

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