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「乗り越えろ!」は大人のエゴ ドイツで感じた“子供らしさ”との向き合い方

年末にはドイツでもいろんな催し物がある。僕の子供たちも学校や所属クラブでのクリスマス会などで、12月の週末はスケジュールがどんどん埋まっていく。20年近くこちらで暮らしてきて思うのは、学校全体で何かをやったりという大規模なものではなく、それぞれのクラスだけ、それぞれのチームだけでこぢんまりとした集いをすることが一般的のようだ。

ドイツの保育園での発表会は日本とは随分異なる自由な雰囲気の中で行われる【写真:Getty Images】
ドイツの保育園での発表会は日本とは随分異なる自由な雰囲気の中で行われる【写真:Getty Images】

【ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」】保育園の発表会で感じた“子供らしさ”を大人が見守る空気

 年末にはドイツでもいろんな催し物がある。僕の子供たちも学校や所属クラブでのクリスマス会などで、12月の週末はスケジュールがどんどん埋まっていく。20年近くこちらで暮らしてきて思うのは、学校全体で何かをやったりという大規模なものではなく、それぞれのクラスだけ、それぞれのチームだけでこぢんまりとした集いをすることが一般的のようだ。

 そもそも基本的にドイツの園や学校では日本のような運動会や学芸会、文化祭といった年間行事がほとんどない。夏休みの後から新年度が始まるということもあって、秋は遠足や校外学習など、どちらかというとクラス内の親睦を深めるような行事が多い印象だ。

 そういえば長男の保育園での発表会が、僕たち夫婦にとって初めてのドイツの園での行事だったと記憶している。

 園の小さな体育館に入ると、まずその自由過ぎる空気に驚いた。出番を待つ子供たちは、舞台の横で一応ひとかたまりになっているものの、本番前から踊り出したり、ふざけあったりとすごく賑やかだ。衣装は確か「上は黒いTシャツ」程度の指定があったと思うが、キャラクターのプリント入りの子、黒がなかったのか濃いグレーのを着ている子、キラキラのラメがついたものを着ている子もいる。友人がFacebookで披露してくれる日本のお遊戯会とは大違いだ。

 長男が僕らを見つけて、大声で「パパ! ママ!」と手を振る。妻が“分かったから静かにしなさい”とジェスチャーするが、周囲のパパママはといえば、大人のほうから「ニックー! がんばってねー!」と声援を送ったりしているので全く意味がない。膝に抱いた次男は、お兄ちゃんを見つけてキャッキャとはしゃぎだす。ふと舞台を見ると、出番を待つお姉ちゃんに駆け寄る2歳くらいの子がいる。ハイハイしていって、そのまま舞台の真ん中で寝転んでしまう赤ちゃんもいる。先生も、親も、それをとがめるでもなく、ざわざわした空気のまま発表会は始まった。

 子供たちの合唱は、ものすごく元気はいいものの、正直声は不揃いで、振り付けもてんでバラバラだ。うつむいたままほとんど歌っていない子がいる。曲のリズムと関係なくずっとカスタネットをガチャガチャ叩く子がいる。なのに、見ていれば見ているほど、そんな不揃いでバラバラでハプニングだらけなこの空間丸ごとが、とても温かくて居心地の良いものに思えてくるのだ。理由はシンプル。子供だもの、大人の予期しないことがあって当たり前だ。その発表会には、子供の子供らしさをそのまま大人が見守る空気があった。

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中野 吉之伴

1977年生まれ。ドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。ドイツでの指導歴は20年以上。SCフライブルクU-15チームで研鑽を積み、現在は元ブンデスリーガクラブであるフライブルガーFCのU12監督と地元町クラブのSVホッホドルフU19監督を兼任する。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に『サッカー年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)、『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)がある。WEBマガジン「フッスバルラボ」主筆・運営。

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