サッカー石川直宏×馬場憂太 個が突き抜けていた元FC東京コンビが思う「個の育て方」
石川さんが思う「今の時代」の指導「何かを抑えるより引き出すことが指導者の楽しみ」
馬場「指導者が怒らないと、だらだらやる時がある。でも、だらだらやることと楽しくやることは全然違う。その中で、最初に試合に勝つことは意識させる。最初の頃は遊びの意識で、負けてもへらへらしちゃう。でも『今はそれで楽しいけど、ここに来ている意味ってある?』と一人一人に投げかける。『自分だったら、試合に負けたら悔しいし、機嫌も悪くなるよ』って。大人にとっては当たり前のことなんだけど、その意識から子供は変わっていく。それが、段々と根付いてきて、今は泣き出す子もいる。
そういうのを見ると、嬉しい。泣くのは悔しさがある証拠だから。その時に子供たちに言うのは『悔しかったら次、負けないように頑張ろう。じゃあ、負けた理由は何?』『あの時、シュート入らなかったよね? その時、悔しがった? 笑ってなかった?』『あのシュートが入るためにはどうしたらいいの? じゃあ、練習でしょ』ということ。そこに『いつも言っている、止める、蹴る、運ぶは全部つながっている。シュートはパス。強く蹴るだけじゃないんだよ』と体験から理解してくれます」
ともに昭和生まれ、平成で育ち、今は令和の子供を育てる。しかし、未だに罰走といった風習も残っているのが現実だ。石川さん自身は「罰走なんて、僕が育ってきた環境では全くなかった」というが、幼少期に見た記憶がある。
石川「周りにそういうチームがあって、泣きながら会場から走っていた。『あいつ、なんで走ってるんだろう?』と帰りの車で見ていたこともあった。もちろん考えがあっての指導だし、そういうチームは根性がある子も多かったけど、今の時代にそれをして何がプラスになるのか。子供の年代は特に強く印象に残るし、子供だった僕も疑問に思っていた。それが本当に必要なら、どんどんいい選手が出てくるけど、少なくとも僕の周りではそういう選手はいませんでした」
馬場「僕もたまに練習試合に行くと『てめえら。何やってるんだ、この野郎』なんて声が飛ぶ小学生チームもある。それは、この年代では間違っていると思う。中学、高校と人格形成されていく過程で、時には厳しく言う指導も必要になる。でも、聞く話でも実体験でも、そういう指導は小学生年代で辞めていく子が多い。それが日本の現状。自分はそういう指導はしたくない。とにかく、このピッチで思い切りやってほしい。ただ、ふざけていたら『違うよ』とは言います」
いつも「今の時代」の子供との接し方は難しい。とはいえ「俺の時代」を押し付けるわけにもいかない。今の指導者はどんなスタンスで子供と向き合うべきか。
石川「感情が表に出ないのは今の子供だけじゃなく、僕が現役終盤の頃から若い年代の選手に対して感じることはあった。僕らの年代はエネルギーが有り余っていて、表に出てしまっていた。それをコントロールすることが大事だけど、若い世代は表に出る前からコントロールされている感じだったかな。それが良しとされてきたから。感情が表に出てしまうのは良くない時もあるけど、出てしまうのはそれだけのエネルギーが裏にあるからなわけで。それくらいの情熱を持った選手がどれだけ日本にいるか。
それが見えないと『じゃあ、なんでサッカーやっているのか。上を目指しているのか』と感じてしまう。本人の意識も大事だけど、それを引き出す指導者がいないといけない。それぞれの個性が違う中で、一人一人を見ているかどうか。“見てくれている感覚”を与えることは子供だけじゃなく、トップ選手でも同じこと。そういう『安心』『平等』を感じさせ、思いきり勝負させる指導者の存在がこれから凄く大事になってくると思うし、何かを抑えるより引き出すことが何より指導者の楽しみ。自分もそうありたいと思っています」
馬場「時にはイライラしてコーンを蹴る子がいれば、厳しく言う。その時に見ているのは翌週、どういう顔して来るのか。本当に子供を思って伝えれば、お母さんも感謝してくれる。そういうパワーはピッチで出そうと子供たちに伝えている。それに対しての声かけも重要。そうしていけば、試合に負けてふてくされて帰っていた子が、泣いているのに次のクラスまでの10分間で必死に球を蹴って帰っていく。そういう姿を見ると指導者としても嬉しいし、もっとこういう環境を作ってあげたいですね」
言葉の節々から、サッカーの普及年代に対する想いを感じさせた2人。ともに30代と若い。日本サッカーの未来を願い、これからも精力的に走り続けていく。
(文中敬称略)