「勉強は部活に必要か」 慶大卒・山縣亮太は“書き癖”で成績も、タイムも伸ばした
生物の勉強は競技に生きないけど…アプローチに共通する「PDCA」とは
「例えば、生物の勉強が競技に生きることはほとんどない。でも、そういうことより“自分の能力を伸ばす”という発想に立った時、そのアプローチの仕方は似ている。PDCA(ビジネス用語で、計画<plan>→実行<do>→評価<check>→改善<act>を繰り返すサイクル)がまさにそう」
陸上短距離の練習は、自分との闘いだ。最も良いと思う理想の走りを掲げ、実際に1本1本走り、今のフォームはどうだったのか。内省しながら、次の1本で良化を目指す。道具を使ったり、相手がいたりする競技と異なり、外的要因でパフォーマンスが左右されることが少なく、より「PDCA」の質が競技力の向上に影響を及ぼす。
勉強も「PDCA」は同じ。正しく知識を得て、試験で良い点を取るためにどんな方法が必要か。道筋を立て、評価・改善を繰り返す。暗記物はメモを取って覚えるタイプという山縣は「陸上でもメモを取って繰り返し見て、知識を定着させるとか。自分の能力を伸ばすという点においては勉強と似ている」と明かした。
そもそも、書いて覚える原点は小学校時代にあった。担任が「学問ノート」なるものを作り、1日1ページ以上、科目は何でも構わないから勉強した内容を書くことを日課とされた。人によっては10~20ページ書く者もいた。「それをとにかくやっていた」と言い、こうした“書き癖”は今なお、競技で実践している。
こうして、勉強で培った“能力の伸ばし方”を陸上に応用することは競技人生に生きたという。何より、自分で決めたことに手を抜かずに成し遂げるという実行力は、どちらにおいても重要だ。
「そうすることで、粘り強くなる。陸上でも“頑張りどころ”というものがある。うまくいかず答えが見えないところから、本気を出して答えを見つけないといけない。僕でも、ふとした瞬間に気が緩んだり、満足したりしてしまうことがある。もうひと息、頑張らないといけない時、勉強と向き合っていた経験が“頑張る習慣”を自分に与えてくれると思う」
培った学びの習慣は、考える習慣につながった。AO入試で慶大に合格。陸上の強豪ではあるが、コーチがいない特殊な環境だ。その裏には明確な狙いがあった。
「陸上の視点に立ってみると、そういう環境がとても良かった。コーチはいない分、選手が主体的にメニューについて意見を出し合い、考える場ができている点が魅力的だった。足が速くなるために選手がそれぞれに考えを持ち、例えば、自分は空手をやって生かそうと試したこともある。そういうことを思う存分に実践できる場所。それが凄くいいなと」
自分の頭で考え、行動する。それが結びついているのが、日本人にしては珍しく海外での大会に強いことだ。「まだまだ発展途上と思う」と前置きをした上で持論を語る。