“東大5年生”が陸上のために選んだ自主留年 覚悟のプラス1年、過去の自分を超えた新倉佑輔の10秒54
9日から4日間、行われた陸上の第103回関東学生競技対校選手権(関東インカレ)。2年ぶりに国立競技場で開催された熱戦を取材した「THE ANSWER」は文武両道で部活に励む選手や、怪我や困難を乗り越えた選手など、さまざまなストーリーを持つ学生を取り上げる。今回は男子2部・100メートルに出場した東大・新倉佑輔(5年)。大学陸上5年目で初めて辿り着いた決勝、10秒76(向かい風1.6メートル)で準優勝を果たした。中学で陸上を始め、集大成として挑んだ大学4年間で挫折を経験。自主留年して得た1年で、高3で記録した自己ベストを更新する10秒54を記録するなど、新しい景色を見た。(取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)
陸上・関東インカレで輝いた選手たち 男子2部・100メートル/東大・新倉佑輔(5年)
9日から4日間、行われた陸上の第103回関東学生競技対校選手権(関東インカレ)。2年ぶりに国立競技場で開催された熱戦を取材した「THE ANSWER」は文武両道で部活に励む選手や、怪我や困難を乗り越えた選手など、さまざまなストーリーを持つ学生を取り上げる。今回は男子2部・100メートルに出場した東大・新倉佑輔(5年)。大学陸上5年目で初めて辿り着いた決勝、10秒76(向かい風1.6メートル)で準優勝を果たした。中学で陸上を始め、集大成として挑んだ大学4年間で挫折を経験。自主留年して得た1年で、高3で記録した自己ベストを更新する10秒54を記録するなど、新しい景色を見た。(取材・文=THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂)
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覚悟を決めて挑んだプラス1年。光が差す国立競技場のホームストレートを、東大5年生が駆け抜けた。新倉は2番目のリアクションタイムで飛び出したものの、優勝に0秒14届かず10秒76で2位。「全然だめでした」。初めて辿り着いた大舞台の決勝で健闘も、悔しさを抑えきれなかった。
中学から始まった陸上人生。愛光学園中・高(愛媛)と全国の舞台も経験し、1浪の末に赤門をくぐって集大成と位置づけた大学陸上で挫折を味わった。
怪我や体調不良も影響し、理想とは程遠い結果の連続。大学4年間で一度も、高3で出した10秒71の自己ベストを更新できなかった。4年時に個人種目では初めて出場した200メートルでも予選落ち。「あまりにも不甲斐ない結果だった」
このままでは終われない――。選んだ道は自主留年。
「大学院に進学して2年間、なんとなく陸上を続けるなら、覚悟を決めてあと1年やった方が自分としても腹が決まる」
1年間と期限を決め、親にも力を借りて得た最後のチャンス。これまで以上に体のケアを徹底し、陸上に懸ける日々を送った。
6年間、越えられなかった10秒71の壁。今年4月に0.1秒上回り、自己ベストを大学生活で初めて塗り替えた。勢いそのまま、今大会の予選で10秒54とさらに更新。「今が一番楽しい」と話す表情は、充実感に満ちていた。
「去年は主将をやらせてもらって結果が出せずにしんどかった。嫌になりかけたこともある」。それでも続けられたのは、陸上が好きだからだ。「優勝のチャンスがある」と意気込んで挑んだ決勝はあと一歩、優勝に届かなかった。ただ、抱いた期待感と芽生えた悔しさは、どちらも挑戦者にしか得られない財産だ。
現在は部活と並行して就活中。「陸上は今年まで。陸上に変わる生き甲斐となる仕事が見つかれば」。プラス1年で見た景色は、この先の人生でも決して色褪せない。
(THE ANSWER編集部・山野邊 佳穂 / Kaho Yamanobe)