女子中高生3人を魅了したフラの奥深さ 安らぎと浄化を感じる“小さなハワイ”での時間
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、コロナ禍を経験した世の中はどこか慎重で、思い切って全力まで振り切れない何かがある。
連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。青春時代はあっという間に過ぎてしまうのに、コロナ禍を経験した世の中はどこか慎重で、思い切って全力まで振り切れない何かがある。
便利だけどなぜか実感の沸かないオンライン。マスクを外したら誰だか分からない新しい友人たち。そんな密度の薄い時間を過ごした後、やっぱりリアルは楽しいと気付かせてくれたのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
「今」に一生懸命取り組む学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。何よりも大切なものは、地道に練習や準備を重ねた、いつもと変わらない毎日。何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)
27頁目 マ-プアナ・フラ・スタジオ 川口クレメンタインさん、大内陽花(はるか)さん、カンナさん
東京・渋谷から東急田園都市線に乗り、多摩川を越える。川崎市に入って程ない閑静な住宅街の中に、小さなハワイはあった。外は寒い日本の冬。だが、スタジオの扉を開けると、そこには南国のスピリットに溢れる別世界が広がる。
幼児から大人までフラの踊りを楽しむ「マ-プアナ・フラ・スタジオ」を主宰するのは、「新ハワイ語−日本語辞典」の著者であり、手話ダンスの先駆者でもある西沢佑(ゆう)さん。フラが持つ“ダンス”という一面にのみ注目するのではなく、演奏も歌も歌詞もすべてを含む総合芸術として捉え、ハワイの島々で育まれてきた文化をリスペクト。歌詞の意味、そこに込められた想いに触れながら、フラの魅力を伝えてきた。
中高生を対象としたクラス「オ-ピオ」に参加するのは、学校も学年も違う3人。フラに出会った時期や理由もそれぞれで、3人一緒のクラスになってからは1年にも満たない。だが、「クレちゃん」「ハルカちゃん」「カンナちゃん」と呼び合い、話に花を咲かせる姿は、不思議な縁で結ばれているようにも見える。
フラは踊っていても見ていても「心が浄化される感じ」
日本人の母と米国人の父を持つ川口さんは、ハワイ・マウイ島で生まれ育った。フラを踊り始めたのは6歳の頃。「楽しそうだなと思って始めて、日本に引っ越してくるまで続けていました」。両親・妹2人の5人で日本へやってきたのは、2018年のことだった。しばらくは日本での生活に慣れることに精一杯の毎日。一時はフラから離れていたが、全世界がコロナ禍に見舞われた2020年から再開した。
川口さん「コロナで学校が休みだった時に、このスタジオを見つけたんです。『また始めたら楽しいかも。やってみたいな』と思って始めることにしました。両親にも勧められたんだけど、特にお父さんが『やろう!』とはりきって、勧め方が激しかったです(笑)」
カンナさんは小学1年生の夏からスタジオに10年以上通う“ベテラン”。大内さんは小学2年生から通い始めたが、高校受験に向けて中学2年生で一区切り。高校2年生となり生活が落ち着いた昨年5月、再び「楽しく踊りたい」という思いに駆られ、スタジオの門を叩いた。一度離れても、また始めたくなる。そんなフラの魅力はどこにあるのだろう。
大内さん「踊っていても見ていても、心が浄化される感じがするんです。フラを踊るのも楽しいけど、見ているだけで癒されるというか」
川口さん「誰かと一緒に踊るのがすごく楽しくて。私は上手ではないけれど、他の人と踊ったり関わったりすることが好きでやっています。私は歴史が好きだから、フラが持つ歴史の話を聞くのがすごく興味深いし、手や足の動きにも意味があって、踊りで話を表現しているところもすごく楽しい。数海(かずみ)先生がいつも、踊り始める前に曲について説明してくれるんです」
大内さん「私は数海先生が大好きなんです! 優しく包み込んでくれる雰囲気がすごく好きだし、もちろん踊りも上手だから尊敬しています」
「みんな先生のことが大好きで会いたいんです」
数海先生は西沢さんの義娘で、主にスタジオでの指導を担当している。結婚後、西沢さんの発表会などを手伝ううちにフラの奥深さに魅せられ、本格的に踊りを学んだという。懐の深さを感じさせる温かな雰囲気の持ち主。踊りを指導するのではなく、受け継いできた伝統と心を次世代につないでいるかのようだ。
スタジオに入れば、みんなフラを愛する仲間。そんなフラットな雰囲気、そして踊りに集中する時間が、3人はたまらなく心地いいようだ。
大内さん「フラのレッスンがある日は、学校で小テストがあっても『今日はフラがあるから、頑張ろう!』ってなる。フラを踊れるし、数海先生にも会えるから。それが楽しみです!」
川口さん「みんな先生のことが大好きで会いたいんです。先生、カワイイから(笑)。フラの時間はすごく楽しいし、『この足の動きが難しい』とか集中できる。余計なことを考えないから、例えば学校で嫌なことがあっても『あ、あんなことあったよね』って軽くなるんです」
カンナさん「数海先生を含め、みんなの顔を見るとホッとするというか、『また来られた! 楽しい!』っていう幸せな気持ちで溢れます」
手や足の動きだけではなく、感情や想いを込めて完成する踊り
3人にとって最大の見せ場は発表会だ。新しい曲に入る時は、歌詞から曲が伝える意味や雰囲気をくみ取りながら、練習を繰り返しながら手や足の振りを覚える。振りを覚えたら、今度はそこに感情や想いを込めることで、踊りとして完成。1曲が形になるまで、およそ半年かかるという。
フラのハンドモーションには愛、花、雨、太陽など一つ一つに意味があり、ステップも多種多様だ。手と足の動きが一体となり、しなやかに美しく、かつ情緒あふれる踊りができるようになるまでの道のりは長い。さらには、竹でできたプ-イリやマラカスに似たウリウリなど楽器を持って踊るとなると、タイミングの取り方など難しさはさらに増す。
川口さん「今はプ-イリを使っていて、私の意見では一番難しいと思います」
大内さん「難しい? 私はウリウリが難しいと思う。楽器に集中すると足が上手くできなかったり、足に集中していると手が疎かになったり……」
カンナ「体に踊りがしみつくまでは、そのバランスが難しいよね」
川口さん「楽器がなくても、足のテンポと手の動きを合わせることが難しくて、すごく気を遣っているかも」
大内さん「自分が思っているよりも客観的に見ると動きが小さく見えるから、大きめに動いたり、手の指先まできれいに見えるように意識したり。スカートの揺れもね」
川口さん「腰の動かし方によってスカートの揺れ方が変わるから。難しいところはいろいろあるよね」
フラの難しさを挙げたらキリがないが、それでもやっぱり「楽しいし、大好き」と3人は満面の笑みを浮かべながら声を揃える。
スタジオにあふれるハワイが誇る「アロハスピリット」
手や足の動き、顔の角度や表情の付け方、目線の送り方……たとえ同じ曲であったとしても、踊り手次第でまったく別の踊りに見えることもあるという。様々に感じる難しさを乗り越えて、エレガントでチャーミングな数海先生のように個性溢れる踊り手になるためには、日々の練習は欠かせない。
カンナさん「練習しないとついていけないので、普段も家で練習しています」
大内さん「私はもともと運動が嫌いで、運動神経もいい方じゃない。でも、フラだけはすごく楽しいので、今週のレッスンでできなかったことは来週までに絶対にできるようになっていようと思うんです。だから、家でも毎日練習しています」
川口さん「ハワイにいた頃より、今の方が断然上手くなっていると思う。それは練習しているからでもあるけど、数海先生の教え方や教室の雰囲気のおかげかも。先輩2人もかっこいいし、時々学校の話も聞いてもらったり。優しい雰囲気や楽しい空気があるから、それで大きく成長できたんだと思います」
カンナさん「練習に来たいって思えるもんね」
川口さん・大内さん「そう!」
挨拶として知られるハワイ語「アロハ」には「愛」「慈悲」「思いやり」など様々な意味がある。それらすべてを体現することが、ハワイで脈々と受け継がれてきた利他の心=アロハスピリットだ。3人が安らぎを感じ、愛着を寄せるこのフラスタジオにもまた、アロハスピリットがあふれているのだろう。ハワイから約6600キロ離れた日本でも、しっかりとフラの真髄は伝わっている。
【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
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■南しずか / Shizuka Minami
1979年、東京生まれ。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材をはじめ、大リーグなど主にプロスポーツイベントを撮影する。主なクライアントは、共同通信社、Sports Graphic Number、週刊ゴルフダイジェストなど。公式サイト:https://www.minamishizuka.com
南カメラマンがファインダー越しに見たアロハスピリット
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)