創部1887年、日本最古の運動部 大会数が激減しても柔道で繋がれた女子部員4人の絆【#青春のアザーカット】
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常
学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。
そんな学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野の第一線で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。コロナ禍で試合や大会がなくなっても、一番大切なのは練習を積み重ねた、いつもと変わらない毎日。その何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)
3頁目 慶應義塾大学女子柔道部・山室未咲さん、五十嵐莉子さん、栗田愛弓さん、石川梨夏子さん
朝9時。それまで和気あいあいとしていた柔道場は、始まりの一礼でガラリと雰囲気を変えた。全ての基礎となる準備運動や回転運動を黙々とこなすと、相手を変えながらの打ち込み。乱取りでは反復練習で体に染み込ませた技を試す。
会話は必要最小限。ホワイトボードに書かれた「自分の中で目標を持つ」というテーマを実践するべく、真剣な眼差しと汗を光らせる約40人の学生柔道家たち。その様子を見守るのは、壁に掲げられた開学の祖・福沢諭吉の肖像画だ。
創部は1887年。日本最古の運動部として135年の歴史を刻む。女子柔道部は総勢4人と少数精鋭ながら、男子と一緒に活動し、心技体を磨く日々だ。練習は火曜から日曜までの週6日。2時間の練習を礼で締めくくると、4人の顔には柔らかな表情が戻り、パッと華やかな笑みが咲く。
主将の山室さん、副主将の五十嵐さん、主務の栗田さんは4年生で、石川さんは唯一の3年生。学年の差を感じさせないのは、諸先輩方から続く伝統でもある。
五十嵐「私たちの1つ上にいた2人の先輩も、自分たちがありのまま素でいられる雰囲気を作ってくれました」
山室「部活っていうと上下関係が厳しいところも多いと思いますが、私たちはお互い意見が言い合える仲でいい関係ですね」
栗田「男子も含めた柔道部全体が下級生の意見にも耳を傾けて、部活をよくしていこうと考えています。女子は特に、一緒に遊びにも行きますね。今は行けないですけど」
石川「私も後輩ができたら、自分から声をかけていい雰囲気を作っていこうと思います」
山室「頑張ってね!(笑)」
五十嵐「唯一の後輩なんですけど、逞しくやっていけると思います(笑)」
コロナ禍により大会数激減、昨年4月以来開催されたのは早慶戦のみ
平時なら年間6大会ほどを戦うが、昨年来のコロナ禍により大会数は激減。昨年4月から8月中旬までの活動自粛を経て、実施された対外試合は11月の早慶対抗柔道戦のみ。それ以降も、大会開催がアナウンスされては直前にキャンセル、が繰り返されている。この1年半で戦ったのは1試合。それでも柔道から離れる選択肢はなかった。
山室「考えなかったですね。私は試合に目標を置かないと自分と高めていけないタイプなので、目先の試合がなくなっても、その次だったり、次の次だったり、少し先を見据えながら、今練習することが大事なんだとモチベーションを維持しています」
五十嵐「普通に柔道をしていた時は『指を骨折して1週間くらい休めないかな』なんて思うこともあったんですけど(笑)、強制的に柔道から離れなくてはいけなくなると、やっぱり柔道が好きなんだ、自分に必要なものなんだって気付かされました。ないと寂しいって」
栗田「私は高校の時に全然勝てなくて柔道が本当に嫌になって、もう大学ではやらないって思ったんです。でも、受験勉強をしている間に悔しくなって、いつのまにか入部して(笑)。だから、大学4年間はしっかりやりきろうっていう思いがあって、そこですね」
石川「私は去年、自粛期間が終わって久々に活動した時、柔道って楽しいなと思ったんです。その時、ちゃんと練習する大切さも感じました。ただ、試合に目標を合わせると結局なくなった時にモチベーションが落ちちゃうので、今は柔道そのものを楽しもう、毎日を楽しもうって思っています」
車座になり、改めてそれぞれが持つ考えに耳を傾ける。
「私はやっぱり柔道が好き。柔道は奥が深くて、自分はまだまだ身につけられることがたくさんあるので」と山室さんが言えば、石川さんは「脳みそを含めた全身を使うのが楽しくて。辞めたら何をすればいいのか。物足りなくなるんじゃないかと思います」。五十嵐さんは「やっぱり結果。柔道は好きなんですけど、負けたら嫌。負けたままで終われないっていうのがあるんですよね」と言い、栗田さんは「他のスポーツと違って距離が近い分、組めば相手の体調も分かる。相手を知り、自分を知って力をつけ合うのが魅力だと思います」と話す。
それぞれカラーは違えど、根本にあるものは一緒。やっぱり、柔道が好き、なのだ。
それぞれが抱く柔道への感謝、かけがえのない仲間と過ごす引退までの日々
うだるような猛暑続きの夏が去り、キャンパスにも秋の気配が漂い始めた。4年生の引退は12月に迫る。飲料メーカーに就職する山室さんは卒業生として三田柔友会に所属して柔道を続け、大手メディアに内定する五十嵐さんは選手を卒業しつつも、指導者として柔道との関わりは保ちたいという。大学院に進学予定の栗田さんは参加するNPO法人で柔道の普及活動を続けながら、中学生の指導なども視野に入れている。
引退前最後の試合は、毎年恒例の早慶対抗柔道戦になる予定だ。4人で活動できる時間は残りわずか。寂しくないと言ったら嘘になるが、かけがえのない仲間に出会わせてくれた柔道には感謝の気持ちしかない。
山室「最後は早慶戦で勝つことが目標です。私たちが卒業したら石川が一人になるかもしれないので、団体で戦えるのも近々では最後。勝つことを目指して頑張ります」
五十嵐「団体戦でチーム一丸となって、足りないところを補いながら高め合っていきたいです。個人的には16年間柔道をやってきて、勝ったり負けたりつらいこともあったけど、最後は楽しく終わりたい。なので、日々の柔道を楽しみながら、プレッシャーに押し潰されずに、好きなまま終わりたいと思います」
栗田「本当に最後なので、楽しかったと笑って終わりたいですね。選手としては練習を頑張って、主務としても最後の仕事を全うして、二つの意味で早慶戦を成功させたいと思っています」
石川「先輩たちが引退したら、少なくとも4月までは一人。でも、1年生が入ってきたら、今度は自分が引っ張る立場になるので、今のうちに独りよがりにならずチームでやることの大切さを学びながら、試合で頑張りたいと思います」
コロナ禍で大学生らしいことはあまりできなかったが、減量が終わったら食べたいスイーツや行きたいカフェの情報交換をしたり、誕生日にコスメを贈って女子力アップに努めたり。女子柔道部として一緒に笑い、喜び、悔しがり、涙した日々は、消えることのない宝物として心の中で輝き続ける。
【出演者募集】
プロカメラマンの南しずかさんが、あなたの部活やクラブ活動に打ち込む姿を撮りにいきます。運動系でも文化系でも、また学校の部活でも学校外での活動でもかまいません。何かに熱中している高校生・大学生で、普段の活動の一コマを作品として残したいという方(個人または3人までのグループ)を募集します。自薦他薦は問いません。
下記より応募フォームにアクセスし、注意事項をご確認の上、ご応募ください。
皆様のご応募をお待ちしております。
■南しずか / Shizuka Minami
1979年、東京都生まれ。東海大学工学部航空宇宙学科、International Center of Photography:フォトジャーナリズム及びドキュメンタリー写真1か年プログラムを卒業。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材を始め、主にプロスポーツイベントを撮影するフリーランスフォトグラファー。ゴルフ・渋野日向子の全英女子オープン制覇、笹生優花の全米女子オープン制覇、大リーグ・イチローの米通算3000安打達成の試合など撮影。米国で最も人気のあるスポーツ雑誌「Sports Illustrated」の撮影の実績もある。最近は「Sports Graphic Number Web」のゴルフコラムを執筆。公式サイト:https://www.minamishizuka.com
南カメラマンがカメラで捉えた慶應義塾大学女子柔道部4人の日常の一コマ
「撮影協力:Pictures Studio赤坂」
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)