なぜ山縣亮太はケンブリッジと桐生祥秀に勝てたのか 「+6センチ」の数字が示す強さ
決勝でストライドを6cm伸ばした山縣の“イメージの体現力”の凄さ
ただ、山縣自身も3レースで万全だったわけではない。課題を残したのは、準決勝だ。ストライドが2m02と3レースで最も短く、回転数は4.86と最も多かった。秋本氏とともに「0.01」を主催するアテネ五輪1600メートルリレー代表の伊藤友広氏は、こう分析する。
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「準決勝では中盤から硬さが出ていました。本来より無理やり足を回転させていた印象です。硬さ+回転の速さ。こうなると、足だけが回って進んでいきません。決勝では、ケンブリッジ選手もうまく修正をしていましたが、特に山縣選手はいい時の走りに修正できていました。レース間の修正能力は素晴らしいものがあると思います」
実際、山縣は準決勝と比較し、決勝のストライドは+6cm(ケンブリッジは±0cm、桐生は-3cm)。しかし、レース間の修正は簡単なことではない。トップ選手であればあるほど、些細なズレが結果に影響を及ぼす可能性がある。山縣はなぜ、いい修正が可能だったのか。伊藤氏は“イメージの体現力”にあるとみている。
「選手なら誰もが日頃から課題を考えて取り組んでいますが、山縣選手の場合は走りそのものの構造をよく理解した上で深く考え、それを実際に修正にできる力を持っている印象です。頭で分かっていても、体がイメージ通りに動かないことも当然あります。レースにおける課題をすぐに見抜けることはもちろんですが、その通りに体を操作できることも素晴らしいと思います」
少しでも課題を掴もうとする山縣の貪欲さ。伊藤氏、秋本氏ともに口を揃えて舌を巻いたシーンがある。それは、決勝レース前のウォーミングアップで自分のフォームの動画を観ていたこと。秋本氏はこう唸った。
「普通はレース前は集中しようとするもの。当然、映像を観ることで考えすぎてしまうこともある。しかし、山縣選手は本番でも課題の把握に努めていました。その感度の高さは凄いと思います。特に彼は専任のコーチがいません。周りに映像を撮ってもらい、それを実際に観て自分を高めようとしている。それも実際に決勝でやってしまうのは素晴らしいと感じます」
また、伊藤氏はスプリンターとして、環境に左右されることがない実践向きの資質を感じ取っているという。