なぜ山縣亮太はケンブリッジと桐生祥秀に勝てたのか 「+6センチ」の数字が示す強さ
陸上のアジア大会代表最終選考会兼日本選手権(山口・維新みらいふスタジアム)は23日、男子100メートル決勝が行われ、山縣亮太(セイコー)が大会タイ記録の10秒05で5年ぶりの優勝を飾った。2着は10秒14でケンブリッジ飛鳥(ナイキ)。日本人初の9秒台を記録した桐生祥秀(日本生命)は10秒16で3着に終わった。実力者揃いの最速決戦で明暗を分けたものは何だったのか。専門家に予選、準決勝、決勝の3レースのデータをもとに分析してもらった。
日本選手権、3レースのデータから見えた3人の「+6cm、±0cm、-3cm」が示すもの
陸上のアジア大会代表最終選考会兼日本選手権(山口・維新みらいふスタジアム)は23日、男子100メートル決勝が行われ、山縣亮太(セイコー)が大会タイ記録の10秒05で5年ぶりの優勝を飾った。2着は10秒14でケンブリッジ飛鳥(ナイキ)。日本人初の9秒台を記録した桐生祥秀(日本生命)は10秒16で3着に終わった。実力者揃いの最速決戦で明暗を分けたものは何だったのか。専門家に予選、準決勝、決勝の3レースのデータをもとに分析してもらった。
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「山縣選手、ケンブリッジ選手、桐生選手の3選手の回転数(ピッチ)とストライドのバランスがデータで見ると分かりやすいと思います」
こう語ったのは、スプリント指導のプロ組織「0.01」を主催する元陸上選手の秋本真吾氏だ。プロ野球選手、サッカー日本代表選手ら、多くのトップアスリートの指導を手掛ける“走りの専門家”は「0.01」で分析した予選、準決勝、決勝の3レースの上位3人のデータをもとに解説してくれた。
秋本氏の言うように別表を見て分かるのは、予選、3レースのストライド(1歩の歩幅)が2着のケンブリッジ(2m15→2m13→2m13)、3着の桐生(2m13→2m11→2m08)の両選手は決勝で最も短くなったこと。1着の山縣(2m06→2m02→2m08)が決勝で最も長くなったのとは対照的だ。この数字が表すものは、いったい何なのか。秋本氏が説明した。
「『歩幅×回転数』がスピードに表れます。どうしても焦ると速く走ろうとするあまりストライドよりも回転に比重が寄ってしまいます。結果としてタイミングが合わなくなりバランスが崩れ、ストライドが伸びず、タイムを落とすことにつながります。自転車に乗っていて重いギアから軽いギアに変わった瞬間にタイミングが合わず踏み外してしまう感覚に似ています。ケンブリッジ選手と桐生選手は予選は力みなく走れていましたが、決勝は『速く走ろう』という意識がデータに表れていると思います」
回転数ではケンブリッジ(4.54→4.59→4.64)、桐生(4.63→4.68→4.72)ともにレースごとに増えているが、ストライドは伸びず、中盤以降の伸びを欠いた。とりわけ顕著だったのが、桐生だ。決勝は3人の中で最高速度の到達点が最も早く来てしまったという。秋本氏はこう指摘する。
「どんな選手でも後半は速度が落ちます。低下をどれだけ抑えられるかが大事になります。ボルト選手は減速が少ないから後半に伸びるように見えます。桐生選手が9秒98を出した時の最高到達点は70メートル付近でした。だからタイムが出たことも納得できます。彼のこれまでのレースの最高速度が出た距離の平均では55メートルくらい。今回に関してはもう少し早い段階で最高速度に達してしまったのではないでしょうか」
結果として、山縣、ケンブリッジが8月のアジア大会代表内定を射止め、桐生は明暗が分かれる結果となった。