日本女子マラソンは健闘か、完敗か 野口みずき「どんな状況でも対応できる人が勝つ」
海外のレース、合宿のススメ「経験するしかない」
暑さに関しては日本人と海外選手に関係なく、それぞれ得意不得意があります。その差がよくわかるレースでした。ノーマークだったモリー・セイデル選手(米国)は、2時間27分46秒で銅メダル。持ちタイムは一山選手より5分ほど遅いですが、それは問題じゃなかった。勝負を意識した大会になると、また違ってきます。
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暑い環境の中では日本人有利という声もありましたが、私はそうではないと思っていました。ドーハの酷暑で行われた2019年世界陸上で優勝したルース・チェプンゲティッチ選手(ケニア)は、29キロ付近から脱落した。暑さに強いかどうかは、体質などのタイプにもよります。一概に日本人選手だからといって強いわけではない。日本人選手は日本陸連の科学委員のもと、深部温度を下げる対策をしていたので、やれることをやってきたと思います。
気温だけの問題ではなく、湿度が高いことは本当にしんどい。乾燥していれば汗が蒸発して体を冷やしてくれる効果があります。しかし、空気中に水分が多いことで汗がまとわりついて熱がこもる。実際の気温よりも暑く感じてしまいます。モワァ~っとして気持ちが悪いです。
結果論になってしまいますが、海外合宿をできていたら結果が変わっていたかもしれませんね。コロナ禍が落ち着いたら、海外のレースに何本か出た方がいい。突然の時間変更で気持ちの準備の仕方などを経験できる。細い道やジグザグコース、石畳などいろいろなものがあり、脚力や瞬発的を鍛えられる。これは経験するしかありません。
最近、日本のレースではペースメーカーもいて、ついていけば記録が出るような形が多い。でも、オリンピックや世界陸上など勝負の世界を考えるのであれば、異なる環境で海外選手と走った方が鍛えられると思います。
私も現役時代は世界ハーフマラソンなど、よく海外に行きました。成績を出して徐々に認知されるようになってから、いろいろな国の市民マラソンなどの大会からオファーが来た。そこにはケニアやエチオピアなど、実力があっても世界大会に出られない選手がたくさんいます。
国内の力が拮抗していて、代表に選ばれない選手が市民マラソンに出ている。日本人選手もそういった機会を利用し、海外選手に揉まれて鍛えることもすごく大切です。大会の大小にかかわらず、経験をこなした方がいい。今振り返ってみると、私はハーフで経験したことがフルマラソンに生きたと思います。
中学生や高校生などには、日本人選手たちの最後まで諦めずに粘った姿を知ってほしい。日本人の良いところです。一山選手は最後までヒヤヒヤしましたが、入賞できるかどうかというところを諦めずに粘りました。アフリカの選手は4番手でもすんなり諦めてしまう選手がいた。体調が悪くなったのわかりませんが、メダルを獲れないとわかったら諦める選手も多い。
こういう暑いレースでは、先頭の元気な選手でも体調が悪くなり、後半は急激に順位を落とすこともあります。自分の順位が上がる可能性もある。だから、最後まで諦めず粘ることも必要。しっかりとやった練習は自信になります。練習も試合も、諦めずにコツコツとやることが結果に繋がっていくと思います。
日本人の3選手は、これで満足するようなことはないでしょう。来年には世界陸上、3年後にはパリ五輪もある。この結果を一つの課題にして、しっかりと世界で戦えるマラソンの黄金時代が再び到来するのを期待しています。
私の日本記録も破ってほしい。うん、破ってくれよ!と願っています。
■野口みずき/THE ANSWERスペシャリスト
1978年7月3日生まれ、三重・伊勢市出身。中学から陸上を始め、三重・宇治山田商高卒業後にワコールに入社。2年目の98年10月から無所属になるも、99年2月以降はグローバリー、シスメックスに在籍。2001年世界選手権で1万メートル13位。初マラソンとなった02年名古屋国際女子マラソンで優勝。03年世界選手権で銀メダル、04年アテネ五輪で金メダルを獲得。05年ベルリンマラソンでは、2時間19分12秒の日本記録で優勝。08年北京五輪は直前に左太ももを痛めて出場辞退。16年4月に現役引退を表明し、同7月に一般男性との結婚を発表。19年1月から岩谷産業陸上競技部アドバイザーを務める。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)