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コロナ陽性で辞退した選手へ 野口みずきが贈る言葉「5日前に欠場した北京五輪のこと」

野口みずきさんはある親子からの手紙をきっかけに立ち直った【写真:荒川祐史】
野口みずきさんはある親子からの手紙をきっかけに立ち直った【写真:荒川祐史】

辞退後に届いたある親子からの手紙「立ち直れた一番のきっかけ」

 でも、そこまで悲観的ではなかった。傷つくというよりも「仕方がない」と。申し訳ないという気持ちだけだった。自分の殻に閉じこもることなく、再び前を歩き始められたのは応援してくれたファンの皆さんのおかげ。それに気づかされたのは、ある親子からの手紙でした。

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 息子さんが自閉症の方だった。「どうやって進んでいけばいいでしょうか」と相談を受けたんです。そして、私に「また頑張ってほしいです」と。いろいろな方にご迷惑をおかけしても、こうやって相談してもらえるんだって。すごくありがたかったし、その人たちのおかげで「冷静にならなきゃいけない」と気づかされた。

 手紙をきっかけにその親子とは今でも交流があります。立ち直れた一番のきっかけ。人前でプレーをするアスリートの意味がそこにあった。

 元気な時ではなく、怪我でつまずいたときから応援し始めてくださった方もいたんです。お手紙やメールで「つらいとは思いますが、しっかり前を向いてまた立ち上がってください。またあなたの走りを見たいです」というメッセージをいただいた。私にとって、どんな言葉よりも綺麗で素晴らしい言葉。本当に支えになって、立ち上がるきっかけにもなりました。

 諦めずにずっとそばで支えてくれたスタッフもいます。私を守ってくれた。一般の方には励ましだけではなく、攻撃的な言葉をいただいたこともあって。でも、それは私の目につくところには置かず、スタッフだけで確認して励ましのメッセージだけ私に出してくれた。また一緒に頑張っていこうと感じました。

 私の中では北京五輪の失敗もなくてはならない出来事だった。人生は山あり谷あり。頂点を見て、今度はどん底を見た。いいことばかりではない。ネガティブな状況に一度だけ自分の殻に閉じこもったことがあったけど、困難な時こそしっかりと冷静に周りの声を聞くことが大事だなと感じた。

 北京五輪の舞台には立てなかったけど、そこに至るまでに記録にチャレンジして日本記録を出せたり、金メダリストとして追われる立場の中で代表権を掴みとれたり、アテネ五輪で満足することなく上を見続けられた。まだまだいける、先をどんどん見ていこうと思えたことは、その後の人生にも繋がっています。

 だから今回の五輪を見ていても、海外選手が冷静に気持ちを切り替えている姿を見て、それが大切なんだなと感じます。人間は生きる上で、また新しいウイルスや何か別の想像もつかない困難にぶつかるかもしれない。コロナ禍でいろんなことを考えさせられる五輪になった。

「五輪は出場することに意義がある」と言われますが、出場できなくても得るものがあります。陽性になって出場できなかった選手は本当に悔しかったと思いますが、この悔しさをバネにできる。パワーに変えられると思うんです。

 励ましの声がたくさん届いているはず。その声をしっかりと自分の力にして、これからまた気持ちを切り替えてほしい。自分だけじゃない。オリンピックを超える力を出せるように頑張ってほしいと思います。

■野口みずき/THE ANSWERスペシャリスト

 1978年7月3日生まれ、三重・伊勢市出身。中学から陸上を始め、三重・宇治山田商高卒業後にワコールに入社。2年目の98年10月から無所属になるも、99年2月以降はグローバリー、シスメックスに在籍。2001年世界選手権で1万メートル13位。初マラソンとなった02年名古屋国際女子マラソンで優勝。03年世界選手権で銀メダル、04年アテネ五輪で金メダルを獲得。05年ベルリンマラソンでは、2時間19分12秒の日本記録で優勝。08年北京五輪は直前に左太ももを痛めて出場辞退。16年4月に現役引退を表明し、同7月に一般男性との結婚を発表。19年1月から岩谷産業陸上競技部アドバイザーを務める。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)

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