「東北『夢』応援プログラム」ラグビー元日本代表主将の菊谷崇が石巻工業高校に激励!
23日にユアテックスタジアム仙台で行われた第96回全国高校ラグビーフットボール大会宮城県予選決勝戦。仙台育英が石巻工業を68-0(前半28-0)で破り、21年連続23度目の全国出場を決めた一戦に、ラグビートップリーグのキヤノンイーグルスに所属する菊谷崇の姿があった。
宮城県大会決勝を訪問した元日本代表主将の菊谷
23日にユアテックスタジアム仙台で行われた第96回全国高校ラグビーフットボール大会宮城県予選決勝戦。仙台育英が石巻工業を68-0(前半28-0)で破り、21年連続23度目の全国出場を決めた一戦に、ラグビートップリーグのキヤノンイーグルスに所属する菊谷崇の姿があった。
菊谷は、ラグビー日本代表として2011年ラグビーワールドカップに主将として全試合に出場し、エディー・ジョーンズ率いる日本代表メンバーにも選出された経歴をもつ日本屈指のラガーマンだ。なぜ、奈良・御所工業高出身の菊谷が宮城県予選決勝に足を運んだのか――。そこには、東日本大震災の復興支援活動を継続してきた菊谷をはじめとするキヤノンイーグルスと石巻工業との絆があった。
菊谷は東日本大震災から5年以上が経過し、東北の支援活動が減少傾向にある中、「東北のために力になりたい」との思いから支援活動を決断。未来の東北を担う人材の育成を目的として、今年3月に公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」に、キヤノンイーグルスの代表として賛同を表明した。そのプログラムを通じて2年連続決勝の舞台で仙台育英に敗れていた石巻工業ラグビー部員と出会い、キヤノンイーグルスとして「花園出場」という目標をサポートをすることになった。
今年6月には、同じくキヤノンイーグルスの所属選手で、ラグビーワールドカップに3大会連続で出場した元日本代表の小野澤宏時とともに石巻工業を訪れ、練習を指導。その後は、遠隔指導ツールの「スマートコーチ」を通じて、石巻工業の目標達成に向けて、キヤノンイーグルスの選手たちとともに練習メニューの提供やアドバイスを送り続けてきた。
迎えた準決勝では、キヤノンイーグルスの思いも届いたのか、劣性の展開を跳ね返し、見事、逆転勝利。そしてこの日の決勝戦では、生徒たちの雄姿を見届けるべく、菊谷がキヤノンイーグルスを代表して、会場に足を運んだのだった。
試合の入りはよかったが…、「もったいないシーンが多かった」
試合当日、グラウンドでのウォーミングアップを前に、菊谷は選手たちを激励した。
「伝えたいことが2つあります。まず一つが、この場に自分たちがジャージーを着て立てるというこの環境に感謝してほしい。監督、コーチ、保護者、マネージャー、試合に出られないメンバー、自分たちが打ち負かしてきた高校、そういった人たちの代表でこの舞台に立てるということ。そしてもう一つ、ここにいるメンバーは生涯の友達だということ。そういう仲間を信じて60分間戦ってほしい。ユアテックスタジアムという素晴らしい環境で試合ができることも一生の思い出になると思う。
こういった舞台だから緊張して当然。ラグビーでミスしない選手なんていない。オールブラックスだって、オーストラリア代表だってミスをする。ミスしたらまずいと思わなくていい。ミスをしたら次のプレーで取り返す。もっといいプレーをして取り返そうと思えばいい。ミスをしてもチームメイトである友達が助けてくれると思えば、チームが一体になる。そういった気持ちを持っていれば、ここにいるみんなの力で勝てると思う。60分間楽しんで戦って下さい」
そんな菊谷の言葉を胸に石巻工業は、臆することなく絶対王者である仙台育英に立ち向かった。パワーのあるフォワード陣や華麗なパスワークを誇る相手に対しても、チーム全員で助け合い、試合の立ち上がりは得点を許さない展開が続いた。
しかし、猛攻を仕掛ける仙台育英に前半10分、先制トライを許すと、その後も失点を重ねて0-28で前半を終了。ハーフタイムに菊谷は「試合の入りは非常に良かった。でも大事なところでのミスが続き、もったいないシーンが多かった。後半の最初にしっかり入れれば、まだまだいける。相手だってミスをする」と話し、石巻工業ももう一度気持ちを入れ直して後半に臨んだが、相手の勢いを止めることはできなかった。後半だけで相手に6トライを含む40得点を許し、0-68で敗北。花園出場はならなかった。
涙を流してうつむく選手たちに、石巻工業の木田監督は「悔しいけど5分でも10分でもクールダウンをしよう」と声を掛け、顧問の岡教諭も「1、2年生は来年もこの舞台にあがれるように、もう一度やり直そう」と励ました。そして、ロッカールームに引き上げた選手たちへ菊谷はこうメッセージを送った。
周りを思いやることの大切さ、「60分間は幸せな時間」
「試合に出た選手は悔しい気持ち、思い残すところもたくさんあると思う。でも、怪我があって出られなかった選手、色々な事情でピッチに立てなかった選手の思いを背負ってグラウンドに立っていたのだから、そういう意味でこの60分間は幸せな時間だったと思います。今回、3年生で試合に出られなかった選手は、その悔しい思いをしっかりと後輩に伝えてほしい。卒業してからもラグビーを続ける機会があれば、その場所でラグビーを楽しむことを忘れずに続けていって下さい。
1年生、2年生は、これからまた新しいシーズンが始まって、先輩たちが成し得なかった『優勝』という目標を自分たちがどうやったら実現できるのか。今日の点差を見て、今日の試合を振り返って、次に向けて自分たちに何が必要なのかというのを自分なりに考えることが大事です。監督やコーチの方たちとも話をして、来年もこの場所に立つこと。そして仙台育英を倒して、悔し涙ではなくて、感動して嬉し涙を流しながら、この場所で話ができることを期待しています」
高校ラグビー部で一緒に汗を流した仲間たちとの思い出は卒業後も心の支えとなり、培った経験や仲間を思いやる気持ちは社会に出てからも大いに役立つと菊谷は言う。石巻工業はこの日、敗れはしたが、目標に向かい汗を流した日々は決して無駄にはならない。菊谷自身、チームの輪や仲間を思いやることの大切さを学び、ラグビー日本代表の主将を任されるまでになった。
石巻工業の3年生はここで引退となるが、1、2年生はすぐに新人大会が始まる。菊谷は言う。
「石巻工業は、ひたむきに攻めるというところが試合に出ているチーム。今日の決勝では負けてしまったんですが、3年連続決勝の舞台に立てるということは素晴らしいことだと思います。仙台育英は21年連続で花園に出場し続けている素晴らしいチームです。大きな壁ではありますが、それがいい目標となっています。向上できる部分は、まだまだ多くあるので、これからも決勝の舞台に立てるように、そして仙台育英を倒すという思いを持って、これから強化していくことができればと思っています。ただ、仙台育英も同じように厳しい練習をしているので、それ以上の厳しい練習をしていかなければいけないと思います」
3年連続決勝の舞台で王者相手に苦杯をなめたが、闘志は消えていない。菊谷をはじめとするキヤノンイーグルスと石巻工業の挑戦はこれからも続く。