一度は思った「男性に生まれていれば…」 女性騎手の先駆者として戦い続ける25歳の現在地――競馬・藤田菜七子
かつては「男性に生まれていれば…」と思ったことも「今はどっちでもいい」
国際女性デーに合わせて実施したインタビュー。この機会に一人の女性として、なりたい女性の理想像を問うと「かっこいい女性かな」と口にした。
「いろんなことにチャレンジしている女性はカッコいいし、芯が強い女性もカッコいいと思う。私もそうなれたらいいなって。でも、女性の幸せとして具体的にこうしたいというのは、まだ全然ないですね(笑)。今は騎手として、もっともっと頑張りたいと思うので」
「女性活躍推進」を目指している時代。25歳になり、藤田もそうした社会の変化を感じ、願うことがあるという。
「私はジョッキーしかやっていないので、あくまで想像の範囲内ですが、どんな職業であっても“女性だから”“男性だから”と分けることはそんなにないのかなと。一緒になって一つの仕事をしていく。その時に男性も女性も関係ない世の中になるといいなと思います」
実は、かつては「男性に生まれていれば……」と思ったことがある。
「筋力的に、体力的に、どうしても敵わないと思った時、もし私が男性だったら(馬を)押さえられたのかな、(結果が)違ったのかなって思ってしまう時がやっぱり何回かありました」と言い、続ける。「でも、今はどっちでもいいですね」。果たして、その理由とは。
「男女が勝負する競技は少ないですが、走るのは馬なので。乗っているジョッキーが女性だろうが男性だろうが、馬にとってはそこまで大きな差はないと思うんです。一番の主役は馬。馬のおかげで勝たせてもらえるし、それが競馬の面白いところ。
それに、こうして実力以上に注目していただいたことも、私が女性だったからと思っているので。最初は正直、凄く嫌ではあったんですが、こうして今は凄くありがたいことだなって思えるようになったので。今は、本当にどっちでもいいですね。
とにかく目の前の今週の競馬、来週の競馬を大事にしていきたい。依頼をいただいた一鞍一鞍をしっかりと大事に乗って、一つでも上の着順を目指していくだけです」
ゲートが開けば、性別は関係ない。それが、アスリートの矜持である。藤田菜七子はありのままを受け入れ、競馬界に生きる一人のジョッキーとして戦い続ける。
【騎手・藤田菜七子が「新しい一歩を踏み出す時に大切にしていること」】
「自分のことを信じることかなと思います。私は自分に自信がなくて、どうしても『どうせ、私なんて』と思ってしまうことばかりなんですが、一歩を踏み出す時に『自分ならできる』『自分なら大丈夫』と暗示をかけて自分を信じることはやってきました。それも、騎手の先輩方に言われたことが大きいです。『お前はそう思っているだろうけど、思っているよりできているから大丈夫』と声をかけてもらって、そうなんだって気付かせてもらって。競馬もそうですが、ゲートが開いたらもう自分がやるしかない。そういう意味でも自分を信じていくことがどんな場所でも大切なのかなと思います」
※「THE ANSWER」では今回の企画に協力いただいた皆さんに「新しい一歩を踏み出す時に大切にしていること」「今、『変わりたい』と考えている女性へのメッセージ」を聞き、発信しています。
(THE ANSWER的 国際女性ウィーク4日目は「女性アスリートのライフプラン」、バレーボール・荒木絵里香が登場)
■藤田 菜七子 / Nanako Fujita
1997年8月9日生まれ。茨城・守谷市出身。小学6年生で騎手を志し、2016年3月に16年ぶりのJRA女性騎手としてデビュー。4月10日の福島第9レースでJRA初勝利。2018年に女性通算最多勝利記録を更新し、2019年に当時の女性歴代最多年間43勝をマーク。同年2月にフェブラリーステークスでG1初騎乗、同12月にJRA重賞初制覇。2020年4月25日に通算100勝を達成。2020年から2年連続フェアプレー賞(関東)を受賞。JRA通算3330戦148勝(重賞1勝)。美浦・根本康広厩舎所属。157.4センチ、45.6キロ。
<3月5日「THE ANSWER的 国際女性ウィーク」オンラインイベント開催>
オンラインイベント「女性アスリートのカラダの学校」を3月5日に開催する。アスリートや専門家が女性アスリートのコンディショニングについて議論を交わしながら、参加者の質問にも答える。第1部は「月経とコンディショニング」をテーマにスポーツクライミング東京五輪銅メダリスト・野口啓代さんをゲストに迎え、月経周期を考慮したコンディショニングを研究する日体大・須永美歌子教授が講師を担当。第2部は「食事と体重管理」をテーマに体操でリオデジャネイロ、東京五輪2大会連続団体入賞の杉原愛子さんをゲストに迎え、公認スポーツ栄養士の橋本玲子氏が講師を担当。1、2部ともに月経など女性アスリートの課題を発信している元競泳日本代表・伊藤華英さんがMCを務める。参加無料。応募は「THE ANSWER」公式サイトから。詳細(https://the-ans.jp/news/304085/)
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)