世界最強ママスプリンターが示す職場復帰の価値 出産4か月で世界陸上挑戦は「より強くなれる」
ブダペスト世界陸上は19日から連日熱戦が繰り広げられている。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けていく。
ブダペスト世界陸上連載「陸上界の真珠たち」第1回
ブダペスト世界陸上は19日から連日熱戦が繰り広げられている。「ドナウの真珠」と呼ばれる美しい街並みを誇るブダペスト。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「陸上界の真珠たち」を届けていく。
第1回は出産からわずか4か月で世界大会を激走した29歳の前回女王ショーナ・ミラーウイボ(バハマ)。20日の女子400メートル予選3組7着で予選落ちしたが、トラックに戻ってきたことに胸を張った。日本では出産後に“復帰しやすい”とは言い難い環境。体の変化を乗り越えた過程や、“職場”復帰へ挑戦する重要性を明かしてくれた。(取材・文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平、鉾久 真大)
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最強のママさんスプリンターが、世界大会復帰を噛みしめた。
予選3組に登場したミラーウイボは、8レーンを激走。6番手で最後の直線へ。前を行く選手の背中を追う展開となったが、ブダペストの風を豪快に切った。自己ベストの48秒36には及ばない52秒65。「無事に出産できたこと、無事に完走できたことに感謝したい」。直後にテレビ局、記者などそれぞれの取材に対応。丁寧に想いを明かすと、レースから1時間が経っていた。
「母親でいることをとても楽しんでいるわ。トラックに戻って来られてとっても楽しい。恋しく思っていたから。歓声はとてもエキサイティング。私は競争が好きなので、ここに戻って来られて嬉しいわ」
世界陸上は400メートルで15、19年に銀、22年金の29歳。17年は200メートルで銅だった。リオ&東京五輪でも400メートル連覇の最強アスリート。4月に男の子を出産した。「出産は体にとてもハードなことよ」。大変さは他のママと同じ。「最初の1週間は『ううぅ』という感じ」と、うめくこともしばしば。「全てがゆっくりになり、体も少し違う感じがした」。慎重に、スローペースで復帰を目指した。
復帰戦になった7月のバハマ選手権は、200メートルで25秒31をマーク。100メートル障害、走り高跳び、砲丸投げ、やり投げにもトライした。「かなり強くなった感じもする」。世界陸上まで2週間はトラック練習にも重点を置き、「最後の最後でとても良い感じになってきた」と力が漲ってきた。「ここに来て、52秒で走れたことはとても印象深いことだと思うわ」
世界のスポーツ界ではテニスのセリーナ・ウィリアムズ、陸上短距離で世界一に君臨したアリソン・フェリックス(ともに米国)、シェリーアン・フレイザープライス(ジャマイカ)など、結婚・出産を経て子どもを育てながら第一線で活躍する選手が増えてきた。