五輪4度出場のママが37歳で学生に転身 アスリートの人生も「選択肢は一つじゃなくていい」――バレーボール・荒木絵里香
理事を務めるママアスリート支援団体「MAN(マン)」の理念
代表主将、海外挑戦、産後復帰、社会人進学……。「ひと通り、いろんな経験はさせてもらった」という荒木さんはスポーツ界の後輩からキャリアについて、さまざまなアドバイスを求められる。女性アスリートのライフプランに課題も感じる。
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「一番は、そもそも選択肢があることを知らないし、想像もできない。まずはこんなことをやっている人が実際にいると知ること。できる・できないは置いておいて、知ることがすごく大事。じゃあ、いろんな選択肢もある中で、自分がどうしたいのか、どうなりたいのかを考えることが必要だと思います」
その中で力を入れているのが、一般社団法人「MAN(マン)」の活動だ。
「Mama Athletes Network(ママ・アスリート・ネットワーク)」の頭文字を取ったママアスリートの支援団体。子供を持つアスリートが集まり、子供を持つアスリート、これから子供を持つことを希望するアスリート、指導者・トレーナーらの競技関係者を支える情報発信、ネットワーク構築を目的に設立された。
クレー射撃で5大会連続出場した中山由起枝さんが代表理事を務め、サッカー・岩清水梓選手、陸上・寺田明日香選手ら、現役のママアスリートが賛同。荒木さんは理事として「妊娠・出産・育児というライフイベントと競技を両立する選択肢があることを伝えることができれば」という活動理念を実現すべく奮闘中だ。
「みんな子供を持ったアスリートなので、話しているとここでしか言えないような悩みが多い。そういう課題を共有して『この人も一緒なんだ』『じゃあ、自分も頑張ろう』ということを発信し、活動を発展させていく段階。(ママアスリートは)やっぱり少数だから、他競技はこうなんだと知ることで励まされ、刺激になります。
よく話題になるのは、合宿などで離れる時の子供の反応や自分の心の整理の付け方。逆に、子供がこんなリアクションしてくれたよ、という話題もあります。もう成人するくらいのお子さんがいる人もいらっしゃるので、子供は結局こうだったよ、みたいな意見や体験を聞くと、まだ赤ちゃんの母親にとってはありがたいんです」
活動に尽力する背景には、ママアスリートとして現役時代に体験したことも影響している。
働いているお母さんたちから「エネルギーをもらった」という声が多く届き、荒木さん自身のエネルギーになった。一方で「子供を家に置いて、なんでスポーツなんてやってるんだ」と言われたこともある。
「だから、社会全体がいろんな“こうあるべき”にとらわれず、みんなが温かい目で見守ってもえらえるとうれしい。家を空けるにしても父親なら何も言われないけど、母親なら驚かれるのは、そもそもおかしいよねと。それぞれの家庭の形がある。それに、今はこの問題に対して、ちょうど社会が変化してる時。今まであまり注目されなかった部分でしたが、女性の社会復帰をみんなで考えていこうというタイミングだと思うので、アスリートにとってもすごくいい機会に感じています」
ただ、女性やアスリートの環境改善ばかりを訴えたいわけではない。育児は男性も女性も協力して行うもの。例えば、スポーツ界ではJOCのナショナルトレーニングセンター(NTC)にある託児所は女子選手が対象といい、「なんでママアスリートしか使えないの?」の声を聞いた時、はっとした。
一番は職業や性別に関係なく、誰もが悩まない環境になること。だから、社会の一部であるアスリートも求めるばかりではなく、自覚が必要になる。
「出産していなくても大変な現役選手も当然います。現段階では、難しいところですが、競技者として一定の結果を出している、あるいは社会的な影響力があるアスリートじゃないとサポートする側も難しいかもしれない。将来的にはそういうことも関係なく、現役を続けたい人が、当たり前のように続けられる環境ができたらいいなと思います」