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なぜ、競技にピルは広まらないのか 女子選手が知るべき「服用のメリットとリスク」

知っておくべきピルのリスク…ただし、回避する方法も存在する

――お話を伺っているとメリットが大きいように思いますが、ピルのリスクもあるのではないでしょうか。

本当にしんどかった重い生理痛 婦人科医に相談、服用し始めたピルが私には合った――サッカー・仲田歩夢選手【私とカラダ】

江夏「もちろん、ないわけではありません。ピルには卵巣から分泌される『エストロゲン』と『プロゲステロン』という2つのホルモンが入っています。エストロゲンというホルモンは女性の体を守るのが使命。お肌を綺麗にする、血管を柔らかくする、髪の毛をツヤツヤにする、あとは骨を丈夫にする、コレステロールを下げるとか、いろんないい働きがあるので、50歳くらいで卵子がゼロになるとホルモンを作れなくなり、月経が上がると同時に、体調が悪くなる。これが更年期障害の原因です。そのエストロゲンが女性の体を守る一環として『お産や月経の出血を固めて止める』という働きを持つんです。エストロゲンを飲み薬で飲むと、肝臓で代謝される時に血を固める作用を高めてしまう。なので、血栓症のリスクが少し上がります。

 ただし、血栓症のリスクは妊娠すると実はピルの何倍も上がります。妊娠中はいつ血が出てもいいように備えているものなので。10代~30代前半くらいまで、ピルのリスクはあまり高くないと言われています。35歳以上で高齢出産と言われますが、そもそも高齢妊娠すると血栓症だったり、血圧が上がったりのリスクが上がる。そんな人にピルを投与するのはリスクが上がり、40代で『慎重投与』、50代以降は『禁忌』と言われています。だから10代、20代のアスリートはそんなに怖くないはず。今度は30代後半になってくると、内膜が厚くならないようにする黄体ホルモン(プロゲステロン)を単独で使えば血栓症のリスクを上げずに治療できたり、いろんな匙加減でリスクを回避する方法はあります」

伊藤「いろいろ方法があるんですね」

江夏「でも、日本はすごく少ない方なんです。海外は黄体ホルモンを3か月に1回注射で打つとか、皮下に埋め込むとかありますが、そもそも避妊の薬であるせいかなかなか日本に入ってこない。避妊としてのホルモン薬の需要があまりないみたいで。日本人は『避妊=コンドーム』という意識が根強い。本来、コンドームはあくまでも性感染症の予防法で、『排卵を抑える=確実な避妊』であるはずなんですが。私たちも、今使える薬を駆使してどうやって楽にしてあげられるか、不安を少なくするか、必死になって考えていますが、そもそも婦人科に来てくれない。『婦人科、嫌だ』『妊娠した時に行くところでしょ』みたいな。そういうところを変えていかないといけないと思います」

(明日30日の第3回は「女性とスポーツの価値」)

(THE ANSWER編集部)

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伊藤 華英

 日本代表選手として2012年ロンドン五輪まで日本競泳会に貢献。2004年アテネ五輪出場確実と騒がれたが、選考会で実力を発揮できず、出場を逃す。水泳が心底好きという気持ちと、五輪にどうしても行きたいという強い気持ちで、2008年女子100m背泳ぎ日本記録を樹立し、初めて五輪代表選手となる。

 その後、メダル獲得を目標にロンドン五輪を目指すが、怪我により2009年に背泳ぎから自由形に転向。自由形の日本代表選手として、世界選手権・アジア大会での数々のメダル獲得を経て、2012年ロンドン五輪・自由形の代表選手となる。2012年10月の岐阜国体を最後に現役引退。

 引退後、ピラティスの資格取得とともに、水泳とピラティスの素晴らしさを多くの人に伝えたいと活動中。また、スポーツ界の環境保全を啓発・実践する「JOCオリンピック・ムーヴメントアンバサダー」としても活動中。

江夏 亜希子

1970年、宮崎・都城市生まれ。96年に鳥取大学卒業後、鳥取大学産婦人科に入局。鳥取大学医学部附属病院、公立八鹿病院(兵庫県)、国立米子病院(現・米子医療センター)などの勤務を経て、04年に上京。汐留第2セントラルクリニック、イーク丸の内、ウィミンズウェルネス銀座クリニックにて女性外来での診療を経験する傍ら、東京大学大学院身体教育学研究科にてスポーツ医学を学び、10年4月に東京都中央区に四季レディースクリニックを開院。日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医、日本スポーツ協会公認スポーツドクターなど。日本エンドメトリオーシス学会、日本性感染症学会、日本臨床スポーツ医学会にも所属する。

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