女性アスリートが陥る摂食障害 体重32kgになった鈴木明子「食べることが怖くなった」
「食べたら治るんでしょ?」の声に閉ざした口「理解されないから声を上げられない」
一人暮らしに戻った後も、うまく食べられる日と食べられない日を繰り返した。また、「痩せ細った体を見られたくない」と人目を避けるように過ごした。エレベーターで他人が至近距離にいたり、買い物中、後ろから人が近づかれたりすることも怖い、という摂食障害からくる対人恐怖症とも闘った。
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それでも、うまくいかない日は、母に電話をしたり、信頼する近所の内科医の元に駆け込んだりしてSOSを発信。「誰にも弱みは見せられない」と歯を食いしばってきた鈴木さんにとって、これが、大きな変化だった。
「急に一つの食べ物に固執することもあり、食べ続けて過食になるんじゃないか、という恐怖心もありました。でも、病院の先生は『そのうち飽きるから大丈夫!』と言い、『ご飯を食べるのが怖い』と母に電話すると、『大丈夫。明日はきっとちゃんと食べられるわよ』と言われた。『大丈夫、大丈夫』。その言葉が、すごく心強かった」
「声を上げれば助けてくれる人はたくさんいる」と鈴木さんは言う。しかし、「摂食障害は理解されないからなかなか声を上げられない」とも話す。
「私は痩せていく間、自分が『おかしい』と思われたくなかったので、自分の状態を絶対に人に言えなかったし、気づかれたくありませんでした。
はっきり覚えていることは、食べられなくなって、痩せてきて、体力がなくなり調子も悪くなってきた頃、不安を話した知人に『食べたら治るんでしょ? 食べればいいじゃん』って言われたこと。この一言で私は、口を閉ざしてしまった。
食べなきゃいけないことはわかっている。だけど、食べる恐怖心が勝ってしまう。このことは、甘えだと思われるんだ、理解してもらえないんだ、と感じたからです。
でも、赤ちゃんだって、お腹が空けば自分からおっぱいを飲みますよね。『食べる』って人として当たり前すぎて、理解してもらえない。今はその気持ちもわかります」
人からの何気ない一言に打ちのめされたからこそ、鈴木さんは摂食障害を自分だけのこととして、帳を下ろすことはできなかった。
「私が自分の経験をお話しするのは、摂食障害を患っている人は、理解してもらえないことに苦しんでいることをわかってほしいからです。食べれば治る。でも、それさえも怖いという心情を、理解するのは難しくても知って欲しい。そのためには、伝え続けることが大事だと考えています」
最近、鈴木さんは一冊の本と出会った。たまたまSNSでフォローしていた料理研究家・Mizukiさんが出版したエッセイ「ふつうのおいしいをつくる人」だ。Mizukiさんはそのなかで、体重が23キロまで落ちた、壮絶な摂食障害の経験を綴っていた。
「やはり自分のことを思い出すので、読み進めるのにすごく勇気がいりました。ましてや、著者のMizukiさんは、過去のすべてを思い返し、書いていくことは大変な作業だったと思います。
完璧主義なところ、お母様との話、そのほか綴られていた様々なエピソードは、自分とすごくリンクする部分が多かった。なかでも衝撃的だったのが、『(体重が)23キロになっても死ななかった。死ねないのなら治るしかない』という言葉です。
私もどうにもならなくて自暴自棄になっていたときに、何のために生きているのか、どう生きたらいいのかわからない、と考えていました。
するとあるとき、体中に産毛が生えてきた。その時、病院の先生に『この産毛は、脂肪がないから体が冷えないよう、臓器を守るために生えてきたのよ。体は諦めていないの。生きたいって思っているんだよ』と言われたんです。
生きようとする力が自分の体のなかにはまだある。それなのに自分から諦めちゃいけないんだよと、体から教えてもらった気がした。その時、必死に『生きよう』と思えたことが思い出されました」
重度の摂食障害を経て、今、料理の仕事をしているMizukiさんの存在を、鈴木さんは「希望になる方」と表現する。
「摂食障害に苦しむ方を支える周囲の方、どうしたら支えられるのかわからない、という方に、是非、読んで頂きたい一冊です」