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「生理が止まるくらい追い込め」思考の根本 アスリートの“性差”の認識が生む勘違い

性ホルモンの影響によって体の機能や見た目などに男女の性差が現れる【イラスト:野口佳大】
性ホルモンの影響によって体の機能や見た目などに男女の性差が現れる【イラスト:野口佳大】

「女性アスリートは女性アスリートとして強くなる方法が必ずある」

 また、見た目に性差が現れるのも性ホルモンの影響。

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 男女とも12歳ぐらいまでは身長・体重にほとんど性差はみられません。12~13歳を境に、ホルモンがいろんな細胞を刺激。女性は胸が膨らみ、丸みをおびた体つきになったり、生理(月経)が始まったりします。男性は身長がグンと伸び、体重も増えてがっちりした体形になったり、ひげが生えてきたりします。そして、女性は思春期から閉経期まで、骨や筋肉、内臓まで女性ホルモンの影響を受け続けるのです。

 ただし、性別は性ホルモンの濃度だけでは決まりません。

 スポーツ界では、陸上女子800メートルで、五輪2大会連続の金メダルを獲得しているキャスター・セメンヤさん(南アフリカ)が、一般的な女性の数値と比べると、テストステロンの濃度が高いことが知られています。これは「DSD(性分化疾患)」という疾患の一つ。このように自分は女性だという自覚があり、女性として育ったが、何らかの原因で男性ホルモン濃度が高いという方もいるのです。

 さて、性差はスポーツパフォーマンスにも影響を与えます。例えば、中学生の体力テストを男女で比較すると、多くの種目で女子は男子の70%前後の数値に留まります。トップアスリートの世界をみても、ほとんどの競技の最高記録はすべて男性のものです。

 パフォーマンスや記録に性差が出る理由は、例えば筋肉量の差、体格(身長や手足の長さ)の差など、生物学的に男女の体のつくりが異なるためです。ですから、女性も男性と同じトレーニングをすれば、より強くなれるのか? と問われると、答えは、否。

 また、本人が望んでいないのに、見た目をいわゆる男っぽく……例えばショートカットにしたり、お化粧しなかったり……しても、別にパフォーマンスの向上にはつながりません。無論、それによって男性ホルモンが濃くなり、強くなったり、アグレッシブになったりすることもありません。

 実際、女性は男性よりも身体能力が劣っている。だから男性に近づくほど今より強くなるのではないか、男性と同じトレーニングが必要ではないか、と勘違いされる方もいます(驚かれるかもしれませんが!)。昔、当たり前のように広がった「生理が止まるぐらい追い込まないと強くなれない」という考えの根本には、そういった考えがあると感じています。

 私は「女性アスリートは女性アスリートとして強くなる方法が必ずある」と考えます。女性アスリートはホルモンバランスの乱れが、生理が止まる、骨がもろくなるなどの体のトラブルやケガの原因になります。ですから結果的には、女性としての健康を保ちながら競技力を高めることが、優れたアスリートだといえるのではないでしょうか。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)


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須永 美歌子

日本体育大学教授、博士(医学)。日本オリンピック委員会強化スタッフ(医・科学スタッフ)、日本陸上競技連盟科学委員、日本体力医学会理事。運動時生理反応の男女差や月経周期の影響を考慮し、女性のための効率的なコンディショニング法やトレーニングプログラムの開発を目指し研究に取り組む。大学・大学院で教鞭を執るほか、専門の運動生理学、トレーニング科学の見地から、女性トップアスリートやコーチを指導。著書に『女性アスリートの教科書』(主婦の友社)、『1から学ぶスポーツ生理学』(ナップ)

長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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