池江璃花子に贈ってくれたポストカードの秘話 記者が触れたショーストロムの優しさ
「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。今回は編集部記者が送るコラム。白血病で長期休養していた競泳・池江璃花子(ルネサンス)は今大会3種目に出場した。長い闘病の末にたどり着いた夢舞台。日本のみならず、海外からも復帰を願う人がいた。
「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#48
「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる様々な“見方”を随時発信する。今回は編集部記者が送るコラム。白血病で長期休養していた競泳・池江璃花子(ルネサンス)は今大会3種目に出場した。長い闘病の末にたどり着いた夢舞台。日本のみならず、海外からも復帰を願う人がいた。
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その一人が、リオ五輪100メートルバタフライ金メダリストで親友のサラ・ショーストロム(スウェーデン)。2年前には闘病中の池江へ、記者を通じ、1枚のポストカードが贈られていた。4つの世界記録を持つショーストロムに依頼した記者が、当時の経緯を明かす。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
◇ ◇ ◇
目の前にいる五輪女王は、温かい笑みを浮かべていた。2019年7月23日、光州の南部大市立国際水泳場。世界水泳の取材で韓国にいた私は、ショーストロムに闘病中の池江に向けた直筆メッセージをお願いした。他に記者もカメラマンもいない部屋。休養日に快く了承してくれた金メダリストは、1枚のポストカードを手にしたまま、考え込んだ。
金髪をくくった練習ウェア姿。その目は遠くを見つめながら、少し悩んでいるようだった。20秒ほど。その時間の長さに、池江に対する思いを感じた。182センチの長身を折り曲げ、机に置いた真っ白のカードに中腰でペンを走らせる。レースで戦った。一緒に合宿もした。食事にも出かけて笑い合った。ライバルでもある親友へ。多くの思いを巡らせながら、一つだけ言葉を選んだ。
「Stay Strong Ikee!!!」
限られたスペースに大きく書かれたワンフレーズ。力強いメッセージに可愛いハートマークが添えられていた。
「強くあれ」――。ショーストロムが短い言葉を記した時、私は「あなたのメッセージは彼女の励みになるし、とても喜ぶと思う」と伝えた。「それが一番よ」と微笑んだ世界女王。くっきりと浮き出たえくぼは、思いやりに溢れていた。
思いを感じる出来事は、前日にもあった。22日の女子100メートルバタフライ決勝直後。2位のショーストロムら表彰台に上がった3選手が、カメラに向けて一斉に手をかざした。「Rikako」「(ハートマーク)」「NEVER」「GIVE UP」「Ikee」「(ハートマーク)」と6つの手のひらに記したメッセージ。病を公表して5か月後の池江に向けたものだった。
「おー!」と沸き立つプレスルーム。海外記者たちも「今、なんて書いてあった!?」と慌てて確認していた。世界中のメディアが続々と報道。取材エリアは、メダリスト3人からメッセージの意図を問う記者でごった返した。当時、表彰式直前に発案したというショーストロムは「私たちが彼女を思い続けているということを目に見える形で伝えた。彼女が水泳を大好きなことは、みんなが知っているわ」と語っていた。
池江が病を公表したのは19年2月。一報を聞いたショーストロムは「本当にショックで言葉がありませんでした」と胸を痛めたという。だからこそ、すぐに2ショットの画像をインスタグラムに投稿し「涙が溢れている。私のありったけの力と愛を送ります」とつづった。