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トップリーグが異例の早期中止を決定したワケ 企業スポーツが持つ“社会的影響力”

「プロ化していたなら、いまとは比べものにならない深刻な問題に」

 大相撲は無観客で春場所を終え、Jリーグ、NPBが公式戦開始を遅らせる中で、TLだけが早々と中止を決断したのには特別な理由がある。TLがプロ選手も抱える一方で、いまだに企業スポーツという形態で運営されていることだ。

 選手の給与を含めたチームの運営費は、試合の入場料や広告、放映権収入ではなく、会社の広告費や福利厚生費などから捻出される。そのため、プロスポーツに比べると公式戦開催が死活問題にはならないのだ。昨年6月から協会内で機運が高まっていたプロリーグ構想が足踏み状態に陥っている中で、ある協会首脳が「もし現時点でプロ化になっていれば、選手の給料、チームの運営費で、いまとは比べ物にならない深刻な問題になっていたはず」と語るように、企業スポーツという運営形態が「中止」による資金面の被害を少なくしているのも事実だ。

 チーム運営のみならずラグビー協会側も、中止による大きな痛手を回避できた部分がある。協会関係者は「入場料収入が減収になるのは痛いが、それが予算のすべてではない」と語っているが、それは協会や代表チームとのスポンサーシップなどの収入が確保される見通しだからだ。減収になる入場料収入についても、RWC日本大会の影響で6節を終えた時点での観客数が42万人と前年度(2018-19年)の総観客数46万人に近く、深刻な減収は回避できそうだ。今後の修正は見込まれるものの18日の理事会では、新年度予算も過去最大の約72億円を計上している。加えて、10日には、RWC組織委員会からの70億円近い大会収益が協会に移譲されることも決まっている。

 その一方で、協会のガバナンス面では課題が露呈された。

 コロナ問題で多くの競技が中止、延期を決める中で、ラグビー協会は3月9日の会見では、同4日に起きた選手の薬物使用事件を理由に3月末までの公式戦中止を発表した。しかしメディアや選手会からは、社会的に深刻さを増すウィルス感染問題の中で、その対策に触れることなく薬物事件で公式戦中止を発表したことに対する疑問、批判が噴出。薬物問題を深刻に受け止め迅速に対応したという説明もなされたが、事件発覚から18日が過ぎた23日の時点でも、協会側の説明は「チームと協議して考えたい」と主体的な方向性も方針も示せていない。大学生も含めると1シーズンで4人も逮捕者がでたという事実を、どこまで深刻に受け止めているかは疑問が残る。

 他競技と比べてラグビーだからこそ、感染問題が大きな痛手となりそうな一面もある。先に触れたようにRWCによる未曽有のラグビー人気の中で、前年度までとは異次元の集客を見せていたTLをわずか6節で中断せざるを得なかったのは、ファン獲得には大きなマイナス要因だ。RWCで活躍した日本代表勢を見たいファンの要望に応え、さらに人気を拡大させる重要なコンテンツをラグビー協会は突然失ったことになる。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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