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慶応の優勝で幕を閉じた神奈川167校の熱い夏 「高校野球」の虜になった新人カメラマンの19日間

第105回全国高校野球選手権・神奈川大会は8日から繰り広げられた19日間の熱戦が幕を閉じた。「THE ANSWER」は新人カメラマンのフォトコラムを連日掲載。最終回は慶応の優勝と、この夏の回顧。26日に横浜スタジアムで行われた決勝、慶応は横浜に6-5と劇的な9回逆転勝ちで甲子園出場を決めた。内野席の最後列から撮影したグラウンドには167校の頂点に立ち、チームとスタンドがひとつになった高校野球の魅力が詰まっていた。(写真・文=THE ANSWER編集部・中戸川 知世)

優勝を決めて挨拶する慶応ナイン、チームと応援席がひとつになっていた【写真:中戸川知世】
優勝を決めて挨拶する慶応ナイン、チームと応援席がひとつになっていた【写真:中戸川知世】

THE ANSWER編集部・新人カメラマン「夏の高校野球神奈川大会フォトコラム」

 第105回全国高校野球選手権・神奈川大会は8日から繰り広げられた19日間の熱戦が幕を閉じた。「THE ANSWER」は新人カメラマンのフォトコラムを連日掲載。最終回は慶応の優勝と、この夏の回顧。26日に横浜スタジアムで行われた決勝、慶応は横浜に6-5と劇的な9回逆転勝ちで甲子園出場を決めた。内野席の最後列から撮影したグラウンドには167校の頂点に立ち、チームとスタンドがひとつになった高校野球の魅力が詰まっていた。(写真・文=THE ANSWER編集部・中戸川 知世)

 ◇ ◇ ◇

 スタンドの歓声が鳴り止まない。

 優勝を決めた慶応ナインが応援席に向かって整列する。いつもは20人で一礼し、声援に応えながら揃ってベンチに帰っていくが、この日はさまざま。深々とお辞儀をした後、また感情を爆発させ、スタンドにガッツポーズする者、嬉し涙で膝を手につく者、抱き合って喜びをかみ締める者――。

 最終回。球場の熱気を応援席丸ごと収めようと、カメラを抱えてハマスタ客席の急階段を最後列まで登った。

 グラウンドを見渡せる場所からシャッターを押した一枚。9回の劇的な逆転で決めた甲子園、選手一人ひとりの表情は見えなくても感情が伝わってくる。びっしりと埋まった応援席も誰もが手を上げて大きな拍手。両者を隔てるネットを越え、選手と応援席がひとつになっていた。

 107人の部員をまとめてきた主将・大村昊澄(3年)は、このときの胸の内を教えてくれた。

「ベンチ20人だけじゃなく、全員で戦った神奈川制覇。一緒に戦ってくれてありがとう、と」

 慶応の優勝で幕を閉じた神奈川の夏。私にとっては「高校野球」を存分に体感した19日間だった。

鎌倉学園の全力校歌の迫力に驚かされた【写真:中戸川知世】
鎌倉学園の全力校歌の迫力に驚かされた【写真:中戸川知世】

「高校野球」を存分に体感した19日間

 8日の取材初日、第1試合。勝利した鎌倉学園ナインが体を反り返らせ、校歌を熱唱する「全力校歌」の迫力に圧倒され、必死にシャッターを切った。各校野球部に根付く伝統と球児の熱さに触れ、ワクワクのスタートになった。

ユニホームはバラバラでも心はひとつ、7校連合は晴れやかな表情だった【写真:中戸川知世】
ユニホームはバラバラでも心はひとつ、7校連合は晴れやかな表情だった【写真:中戸川知世】

 田奈・釜利谷・永谷・横浜明朋・横須賀南・海洋科学・平塚農商で挑んだ13人の7校連合チーム。11日の初戦で敗れたが、限られる練習時間の中で1つのグラウンドに集まり、みんなで野球に熱中した。ユニホームはバラバラでも、心はひとつ。試合後に撮らせてもらった集合写真、夏空に負けない晴れやかな表情が印象深い。

レフトに抜けるライナーに全身を一直線にして飛びついた三浦学苑の遊撃手【写真:中戸川知世】
レフトに抜けるライナーに全身を一直線にして飛びついた三浦学苑の遊撃手【写真:中戸川知世】

 翌12日には仲間を想う一瞬のプレーを切り取った。三浦学苑の遊撃手がレフトに抜けるライナーに懸命に飛びつき、空中で全身が一直線に。「ピッチャーのために、意地でも捕らなきゃと」。毎日朝練をしながらチームを引っ張ってきた背番号1を助けようと、左手が伸びた。

ヘルメットを撮って汗をぬぐう横浜のエース、夏の日差しで応援席の黄と赤が色濃く見えた【写真:中戸川知世】
ヘルメットを撮って汗をぬぐう横浜のエース、夏の日差しで応援席の黄と赤が色濃く見えた【写真:中戸川知世】

 最高気温35度まで上がった16日のサーティーフォー保土ヶ谷。猛暑の中、力投を続ける横浜のエースが打席の前にネクストバッターサークルで汗をぬぐう。高い位置の太陽に照らされ、黄と赤が色濃く見えた応援席を入れて撮りたくなった一枚だった。

横浜の校歌を直立して聞く湘南工大付のブルペン捕手【写真:中戸川知世】
横浜の校歌を直立して聞く湘南工大付のブルペン捕手【写真:中戸川知世】

 その試合後のカメラマン席、ふと気づくと、隣で敗れた湘南工大付の補助員がたった一人直立し、横浜の校歌を聞いていた。誰も見ていない場所でもこんな行動ができる。「相手あってこその野球。最後まで見届けるのがスポーツ」。後でそう言った球児のリスペクト精神に胸を打たれ、1枚だけそっと撮らせてもらった。

 私自身、これまで高校野球はどこか遠い存在だった。ただ、常に全力でプレーし、礼儀正しい球児たちを近くで連日撮ることができた。

 雨天中止なしで続く猛暑、凍ったペットボトルを持って球場に向う日々。体力のなさを痛感したり、狙っていた場面を逃したり、大変なことが半分。でも、もう半分は好きな写真をたくさん撮りながら、毎試合のように応援席に足を運んで控え部員や保護者、関係者を取材し、誰かのストーリーや想いを知ることが楽しかった。

 今、慶応の甲子園の活躍が楽しみでならないほど、高校野球の虜になっている。心熱くなる機会をくれた、この夏を全力で駆け抜けた神奈川の球児に感謝したい。

(THE ANSWER編集部・中戸川 知世 / Chise Nakatogawa)

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