人と殴り合うスポーツが人を育てること 痛みを知り「脳汁ドバドバ」の世界で悟った己のスケール――ボクシング・入江聖奈
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
「シン・オリンピックのミカタ」#85 連載「私のスポーツは人をどう育てるのか」第10回
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。
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今回は連載「私のスポーツは人をどう育てるのか」。現役アスリートやOB・OG、指導者、学者などが登場し、少子化が進む中で求められるスポーツ普及を考え、それぞれ打ち込んできた競技が教育や人格形成においてもたらすものを語る。実力はもちろんのこと、運もついてこなければ金メダルまではなかなか届かない。2021年の東京オリンピック、ボクシング女子フェザー級で金メダルを獲得した入江聖奈は「このときは勝負の神様に好いてもらった」と言う。(取材・文=二宮 寿朗)
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「オリンピックに出てくる選手なんてみんな努力しているので、“どれだけ努力したか合戦”じゃないんです。そうなると、もう最後は運だよねって思って。ゲン担ぎとしていて(大会の)3日前から、きちんと靴を揃えるとか、誰かが落としたゴミを拾うとか、当たり前のこととはいえ、やれることはすべてやってみました。なにせ3日前なので、勝負の神様もそんなもので情が動くとは思えなかったですけど」
2021年の東京オリンピックにおける入江聖奈の目標は「3位以内に入って絶対にメダルを獲る」だった。これまで2018年の世界ユース選手権で銅メダル、翌年の世界選手権でベスト8に進出するなど実績はあったものの、メダルが近づくかそれとも遠くなるかは組み合わせ次第だとも正直考えていた。
「最大のライバルと思っていた選手と決勝まで当たらないことが分かって『おー、神様が味方してくれている』っていうのが20%くらいありました。そうしたらその選手が初戦で負けたので、自信バロメーターがグイグイと上がってきて、もしかしたらワンチャンあるんじゃないかって」
運にすがっていたのではない。
どこかそうやって気持ちを逃がしておかないと、プレッシャーをガッツリと受け止めてしまう。“勝負の神様”にほんの少し気持ちを向けることが、落ち着かせることにもなった。
「(大会に入って)メチャメチャ緊張していました。ご飯もなかなか喉を通らなかったくらい。緊張しすぎるのがあまりに嫌で、パリオリンピックを目指さなかったところもあります。重圧を勝手に感じていましたね。
新型コロナウイルスの問題で東京オリンピックが中止か、開催かという議論になったじゃないですか。あのときの私は、中止になればいいのにと思っていたんです。メダルを獲れなかった場合のことを考えたら、もう嫌すぎて。だったらいっそのこと、大会がなくなってしまったら気が楽なのにな、と」