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怒った協会幹部「強化費をフリーと女子に回せ」 肩身が狭かった日本のグレコに2つの金メダルが輝くまで

スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

レスリングで金メダルを獲得した文田健一郎と日下尚(右)【写真:ロイター】
レスリングで金メダルを獲得した文田健一郎と日下尚(右)【写真:ロイター】

「シン・オリンピックのミカタ」#76 連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」第15回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、4年に一度のスポーツの祭典だから五輪を観る人も、もっと楽しみ、もっと学べる“新たな見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値の理解が世の中に広がり、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

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 今回は連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和と、五輪を含めスポーツを40年追い続けた「OGGI」こと荻島弘一氏が“沼”のように深いオリンピックの魅力を独自の視点で連日発信する。今回はレスリング・グレコローマンスタイルで日本勢40年ぶりの金メダルを獲得した男子60キロ級・文田健一郎と男子77キロ級・日下尚の裏で、フリースタイルと女子に押され、「グレコ」が長きにわたって過ごしてきた冬の時代をひも解く。

 ◇ ◇ ◇

「日本レスリング、グレコから撤退へ!」。そう原稿に書いたのは、リオデジャネイロ五輪予選を兼ねた15年世界選手権の時だった。吉田沙保里や伊調馨ら女子が次々と五輪出場を決め、男子のフリースタイルも続いた。ところが、グレコローマンスタイルは5位以内に与えられる出場枠獲得0。グレコ陣は暗いムードに包まれていた。

 怒ったのは日本協会の幹部たちだった。「グレコの連中は世界と戦う意識がない」「最初からあきらめている」「気合が足りない」……。結果そのものより、戦う姿勢、メンタルへの不満もあった。「グレコの強化費をフリーと女子に回した方がいい。日本にグレコはいらない」という幹部のコメントが「撤退へ」の原稿になった。

 もともと、日本におけるグレコの地位は低かった。100年前、パリ大会でレスリング初のメダルを獲得した内藤克稔はフリー。初の金メダルの石井庄八も、アニマルと呼ばれた渡辺長武も、金メダルをなくした小林孝至も、男子24年ぶり金の米満達弘も、みなフリースタイルだった。日本が今大会前までに獲得したレスリングの金メダルは37個だが、グレコは4個だけ(フリー18、女子15)。日本協会幹部もほぼフリーが独占するなど、グレコ陣は肩身の狭い思いをしてきた。

 フリーとグレコの大きな違いは。下半身への攻撃が認めるか否か。古代ギリシャ、ローマで行われていた伝統あるレスリングがグレコ(ギリシャ)ローマン(ローマ)。英国で発祥し、米国で発展したとされるのがフリースタイル。今も欧州ではグレコが盛んだ。

 上半身のみの攻防でパワーの差が出やすいグレコは、日本人には不向きとされてきた。さらに、日本では子ども向けに教えるのはほとんどフリー。高校生からグレコを本格的に始める選手が多く「フリーで勝てない選手がグレコをやる」とまで言われた。自ら望んでグレコを追求してきた選手たちにとって屈辱だったに違いない。

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荻島 弘一

1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。

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